■前記
■以下
主文
1被告学校法人関東学院は,原告Cに対し,金49万8800円及びこれに対する平成14年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2被告学校法人上智学院は,原告Eに対し,金52万8600円及びこれに対する平成14年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告学校法人立正大学学園は,原告Kに対し,金58万3000円,原告Nに対し,金73万5000円,原告Oに対し,金73万5000円及びこれらに対する平成14年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員,原告Qに対し,金59万円及びこれに対する平成15年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4被告学校法人早稲田大学は,原告Sに対し,金68万4250円,原告Tに対し,金43万6100円及びこれらに対する平成14年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5原告A,原告B,原告D,原告F,原告G,原告H,原告I,原告J,原告L,原告M,原告P及び原告Rの請求並びに原告C,原告E,原告K,原告N,原告O,原告Q,原告S及び原告Tのその余の請求をいずれも棄却する。
6訴訟費用は,原告らと被告学校法人青山学院との間においては,全部原告らの負担とし,原告らと被告学校法人関東学院との間においては,原告らに生じた分の30分の1を同被告の,同被告に生じた分の3分の2を原告らの,その余の分を各自の負担とし,原告らと被告慶應義塾との間においては,全部原告らの負担とし,原告らと被告学校法人上智学院との間においては,原告らに生じた分の30分の1を同被告の,同被告に生じた分の15分の13を原告らの,その余の分を各自の負担とし,原告らと被告学校法人星薬科大学との間においては,全部原告らの負担とし,原告らと被告学校法人立正大学学園との間においては,原告らに生じた分の15分の2を同被告の,同被告に生じた分の21分の13を原告らの,その余の分を各自の負担とし,
原告らと被告学校法人早稲田大学との間においては,原告らに生じた分の15分の1を同被告の,同被告に生じた分の9分の5を原告らの,その余の分を各自の負担とする。
7この判決は,主文第1項ないし第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告らは,別紙請求・認容金額一覧表(以下「別表1」という。)の各被告に対応する原告に対し,同表請求金額欄記載の金員及びこれに対する請求遅延損害金の起算日欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2事案の概要
本件は,学校教育法所定の大学を設置する被告らが実施した入学試験に合格して被告らとの間で在学契約を締結し,入学時納入金を支払ったものの,その後,他大学に入学するために同契約を解除したと主張する原告らが,被告らに対し,入学時納入金を返還しない旨の合意は無効であるとして,不当利得に基づき別表1の請求欄記載の各納入金相当額及びこれに対する請求(本件訴状の送達)の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。1争いのない事実
(1)当事者
ア被告学校法人青山学院(以下「被告青山学院」という。)は,青山学院大学を設置する学校法人である。
イ被告学校法人関東学院(以下「被告関東学院」という。)は,関東学院大学を設置する学校法人である。
ウ被告慶應義塾は,慶應義塾大学を設置する学校法人である。
エ被告学校法人上智学院(以下「被告上智学院」という。)は,上智大学を設置する学校法人である。
オ被告学校法人星薬科大学(以下「被告星薬科大学」という。)は,星薬科大学を設置する学校法人である。
カ被告学校法人立正大学学園(以下「被告立正大学学園」という。)は,立正大学を設置する学校法人である。
キ被告学校法人早稲田大学(以下「被告早稲田大学」という。)は,早稲田大学を設置する学校法人である。
(2)事実経過
原告らは,別紙入学手続及び入学辞退手続一覧表(以下「別表2」という。)の入学試験欄記載の入学試験を同表の試験日欄記載の日に受け,同表の合格日欄記載の日に合格との判定の告知を受け,同表の手続欄記載のとおりの金員(その際に支払った入学金及び授業料その他の金員の内訳は同表の入学時納入金欄記載のとおり(ただし,原告Rについては入学金(登録料)のみ)であり,以下,これらを総称して「入学時納入金」という。)を納付して入学手続の全部又は一部を行ったが,その後,同表記載の入学辞退の申入れ欄記載のとおり該当被告に対して入学辞退の意思表示をした。
なお,被告立正大学学園は,納付された入学時納入金のうち別表2の返金欄記載の金員を各該当原告に返還したが,その余の被告らは,いずれも前記金員を返還していない。
(3)被告らにおける入学時納入金に関する取扱い
ア被告青山学院は,平成14年度一般入学試験要項に入学時納入金は返還しない旨を記載し,かつ,学則(青山学院大学学費納付規則7条1項)において退学する者はその願い出の手続と同時に退学期日を含む学期までの学費等を完納しなければならない旨を定めていた。
イ被告関東学院は,平成13年度及び14年度の各学生募集要項に入学時納入金はいかなる理由があっても返還しない旨を記載した上,前記各年度の一般入学試験(前期日程)に係る各入学手続要項にも前同様の記載をしていた。
ウ被告慶應義塾は,平成9年度入学試験要項に入学時納入金は理由のいかんにかかわらず返還しない旨を記載した上,同年度の入学手続要項にも前同様の記載をしていた。
エ被告上智学院は,上智大学学則において入学時納入金はいかなる理由があっても返還しない旨(66条)及び退学を願い出る者はその時期までの授業料等を完納しなければならない旨(39条2項)をそれぞれ定めており,平成9年,13年及び14年度の入学試験要項及び入学手続要項にもこれと同様の記載をしていた。
オ被告星薬科大学は,平成14年度学生募集要項に同年3月22日(金)午後4時以降は理由にかかわらず入学時納入金を返還しない旨を記載していた。
カ被告立正大学学園は,平成13年度及び14年度の各入学試験要項に入学時納入金は原則として返還しない旨を記載した上,前記各年度の一般入学試験に係る入学手続要項にも前同様の記載をするとともに,その手続に用いる入学申込金振込依頼書にも前同様の記載をし,さらに,立正大学学則38条において病気その他やむを得ない事由により退学する場合には所定の学費は納付済みでなければならない旨を定め,その手続に用いる退学届にも退学期日までの学費は完納すべき旨を記載していた。
キ被告早稲田大学は,早稲田大学学則58条において入学時納入金は事情のいかんにかかわらず返還しない旨を定め,かつ,平成14年度の入学試験要項に入学時納入金及び学費等(第1期分)についてはどのような事情があっても返還しない旨を記載するとともに,同年度の入学手続の手引きにも前同様の記載をし,さらに,同年度の理工学部のアドミッションズ・オフィス入学試験(以下「創成入試」という。)及び政治経済学部のアドミッションズ・オフィス入学試験(以下「総合選抜入試」という。)の各入学手続関係書類にも前同様の記載をしていた。
2争点及び当事者の主張
(1)在学契約の成否
ア原告ら
在学契約が成立するに至る過程としては,入学案内が申込みの誘引であり,受験しようとする者の入学願書の提出その他の手続が申込みである。
これに対し,大学側による合格発表あるいは合格通知の発信が入学時納入金の納付及び入学手続をしないことを解除条件とする承諾であり,これによって在学契約が成立するが,仮にそうでないとしても,合格発表あるいは合格通知の発信は,相手方の承諾があれば,直ちに在学契約を成立させようとする確定的な意思表示であるから,大学側のする申込みの意思表示であり,他方で,合格した者が入学金を納付することをもって承諾の意思表示とみることができる。
したがって,原告ら全員につき別表2記載のとおり各該当年度の入学者としての在学契約が成立した。
なお,原告B及び原告Cは,被告関東学院の入学試験を受験し,これに合格したばかりでなく,入学時納入金を納付しており,また,原告R,原告S及び原告Tは,被告早稲田大学との間で前同様の手続を執っているから,いずれについてもその後の入学手続を履践しないことを解除条件としてそれぞれ各被告らとの間で在学契約が成立した。
この点に関し,被告関東学院の主張は,在学契約の成立の問題と入学の時期の問題とを混同するものであり,被告早稲田大学の主張は,契約も成立していない段階で,合格をした者が入学時納入金を納付し,大学側が法律上の原因もないのにこれを保持することを認めるものであって,いずれも妥当でない。
イ被告ら
(ア)被告青山学院,被告慶應義塾,被告上智学院,被告星薬科大学,被告立正大学学園
在学契約の成立に至るまでの過程及びその成立の時期はともかくとして,別表2の原告欄記載の各原告とこれに対応する被告欄記載の各被告との間で,それぞれ同記載の各年度の入学者としての在学契約が成立したこと自体は認める。
なお,在学契約は,入学試験の合格者からの申込みに対し,被告らが承諾することにより成立し,その成立時期は,合格発表あるいはその通知(被告上智学院)又は入学手続終了時(その余の被告ら)である。
(イ)被告関東学院
学校教育法施行規則72条1項,44条によれば,学年は4月1日に始まり翌年3月31日に終わるものとされているところ,被告関東学院は,関東学院大学学則36条において,入学の時期は学年の始めとする旨定めた上,平成13年度及び14年度の各学生募集要項において,各年3月末までに高等学校を卒業できなかった場合は合格取消しとなり入学資格を失う旨を記載しているのであって,入学手続完了者といえども3月31日までは入学資格を有する身分を取得したにすぎないと解すべきである。
そして,入学資格者は,3月31日まで自由に在学契約の申込みを撤回することができ,4月1日の到来を待って初めてその入学意思が明確になることを考慮すると,入学手続を完了することによって在学契約の申込みを行い,同被告は,4月1
日の到来によりこの申込みを承諾することになるのである。
なお,高等学校卒業見込者については,卒業証明書を提出することにより入学手続が完了するから,その時点までは在学契約は成立しない。
したがって,原告B及び原告Cは,4月1日が到来する以前に入学辞退の申入れを被告関東学院にしている上,原告Cについては卒業証明書すら提出していないから,いずれについても在学契約は成立していない。
(ウ)被告早稲田大学
在学契約の成立に至る過程としては,学生募集行為が申込みの誘引,入学試験の合格通知が入学資格の認定,合格者による入学手続が在学契約の申込みであって,入学手続の完了をもって被告早稲田大学によりこの申込みに対する承諾がなされ,その後,創成入試及び総合選抜にあっては,科目登録の関係書類の送付によって合格者に対して承諾の確認をしている。
そして,早稲田大学における一般入学試験,理工学部創成入試及び政治経済学部総合選抜入試においては,第一次及び第二次の2段階の入学手続が必要とされるので,この第二次入学手続の完了前に在学契約が成立することはあり得ない。
原告R,原告S及び原告Tは,いずれも第二次入学手続をしていないので,同被告との間で在学契約は成立していない。
なお,受験者は,大学から合格通知を受けたからといって,入学する義務を負うものではないこと,複数の大学の入学試験に合格した受験者が複数の大学との間で在学契約を締結したと解するのは身分契約的要素を持つ在学契約の本質に照らし妥当でないこと,不作為を解除条件として契約が成立すると解するのは一定の手続を経て契約が成立するに至るという事理を言い替えたにすぎないこと,入学金の納付をもって在学契約を承諾する意思表示とみるのは実態から乖離していることに照らすと,原告らの主張は妥当でない。
(2)入学辞退の申入れの法的性質
ア原告ら
入学辞退の申入れは在学契約を解除する旨の意思表示であるところ,各在学契約は,原告らによるこの申入れにより解除されて効力を失った。
イ被告ら
(ア)被告関東学院
入学辞退の申入れは,在学契約の解除ではなく,在学契約の申込みの撤回の意思表示である。
仮に何らかの理由により被告関東学院と原告B及び原告Cとの間において在学契約が成立しているとしても,在学契約の効力が発生する以前の入学辞退の意思表示は,同様に申込みの撤回と解される。
したがって,前記各原告らの入学辞退の意思表示は,在学契約の効力発生時である4月1日より前になされたものであるから,その意思表示は,やはり申込みの撤回と解すべきである。
(イ)被告慶應義塾
原告Dが被告慶應義塾に対し,入学辞退の申入れをしたことにより,在学契約が将来に向けて解消されたことは認める。
(ウ)被告上智学院
原告E,原告G及び原告Iが被告上智学院に対し,それぞれ入学辞退の申入れをしたことにより,学生たる地位を取得する権利を放棄したか,あるいは両者間の在学契約が解除されたことは認める。
なぜなら,在学契約は,同被告の指定した期日までに,同被告が指定した金額の入学時納入金の納付を含む同被告の指定した諸手続を履行しないことを解除条件として成立し,かつ,同被告の指定した期日までに前記諸手続を履行し,当該解除条件の不成就が確定した後,3月31日までの間になされる入学辞退の申出は,この権利を放棄する意思表示となるためである。
(エ)被告立正大学学園
在学契約は,特殊な無名契約であることから,民法651条の適用又は類推適用を前提とした任意解除が認められる余地はない。
契約の解除が認められるのは,法定解除事由がある場合及び当事者間に合意があった場合に限られる。
そこで,退学の場合と異なり,教授会の議を経て学長が承認するというような手続が予定されていない入学試験合格者による入学辞退の申入れは,これを在学契約の解除の意思表示とみることはできず,単に入学し得る地位又は権利の放棄であるというべきである。
そして,入学試験合格者から入学辞退の申入れがあると,大学側も学生として扱わないし,その後の学費も請求していないだけである。
(オ)被告早稲田大学
入学辞退の申入れは,入学資格ないしこれに付帯する権利の放棄にすぎず,在学契約の解除ではない。
(3)入学辞退の申入れの有無
ア原告A関係
(ア)原告A
同原告は,青山学院大学の入学式を欠席し,その学生証を受領せず,履修登録もしていないところ,このような3つの事情があれば大学から教育役務の提供を受ける意思がないことは客観的に明らかであると解される上,他の大学へ入学しているにもかかわらず青山学院大学への入学を認めることは明らかに社会通念に反するので,被告青山学院との在学契約を黙示的に解除したとみるべきである。
(イ)被告青山学院
同原告の主張は,外部から明らかでない内心の意思あるいはこれに基づく不作為によって,事後的に基準日である平成14年4月1日に遡って入学の有無を決しようとするものであり,不合理である。
なお,同原告の入学式への出欠の有無は,同被告において確認することができない。
イ原告F関係
(ア)原告F
同原告は,上智大学の入学式を欠席し,その学生証を受領せず,履修登録もしなかったので,これにより被告上智学院との在学契約を黙示的に解除したとみるべきである。
(イ)被告上智学院
同原告は,学生証を受領せず,履修登録もしていないが,入学時納入金を納付して上智大学の学生としての身分を保持しようとする者が存在する以上,前記の3つの事情のみによって在学契約を解除する黙示の意思表示があったと推認することはできない。
なお,同原告の入学式への出欠は,同被告において確認することができない。
ウ原告H関係
(ア)原告H
同原告は,平成14年3月23日,被告上智学院に対し,電話をもって,入学辞退の申入れをした。
(イ)被告上智学院
同被告においては,入学試験合格者に対し入学辞退の申入れは書面により手続を執るように要請し,口頭での申入れは原則として受理していないから,仮に同原告が入学辞退の申入れをしたのであれば,入学辞退書を提出しているはずであるところ,この書面が存在しないので,申入れがあったとすることはできない。
エ原告J関係
(ア)原告J
同原告は,平成14年3月23日,他に合格した東北大学に入学する予定であったことから,星薬科大学の教務部窓口に赴き,入学辞退を申し入れた。
もっとも,同原告は,入学時納入金の返還を求めたところ,被告星薬科大学がこれに応じなかったことから,入学辞退書を提出しないで持ち帰ったものであり,その際,母親が受講させるなどと発言することはあり得ない。
(イ)被告星薬科大学
同被告の担当者としては,同原告が入学辞退書を提出しないので,その真意を確認することができず,同原告において入学辞退につき確定的な意思表示があったとすることはできない。
また,同原告の母親は,同被告の担当者に対し,前期の授業については受ける権利があるので,受講させる旨を述べており,このような状況の下では,入学辞退の申入れをしていないか,これを撤回したかのいずれかである。
オ原告P関係
(ア)原告P
同原告は,立正大学の入学式を欠席し,学生証を受領せず,履修登録をしなかったばかりか,平成14年4月上旬には口頭で入学辞退の申入れをしており,履修登録期限の経過又は入学辞退の申入れのいずれか早い時点で在学契約は解除されたとみるべきである。
(イ)被告立正大学学園
同原告は,退学により在学契約を解除しており,退学処理は教授会の議を経て,学長がこれを定めるとされているため,在学契約の解除は,提出された退学届が教授会を経て処理され,同被告がこれを認める意思表示を発信した平成14年4月19日の時点をもってなされたというべきである。
なお,同原告の入学式への出欠は,同被告において確認することができない。
カ原告R関係
(ア)原告R
同原告は,平成14年3月13日までに提出すべき入学手続書類を提出したり,同月25日までに納入すべき授業料等を納付したりしておらず,第二次入学手続を執っていないから,在学契約の解除条件が成就した。
また,同原告は,第二次入学手続を執らなかったばかりでなく,早稲田大学の入学式に欠席し,学生証の交付を受けず,履修届を提出しなかったのであるから,遅くとも履修届の提出期限までには在学契約を解除する旨の黙示的な意思表示をしたとみるべきである。
(イ)被告早稲田大学
同原告は,第二次入学手続を執らないことにより,入学資格ないしこれに附帯する権利を放棄したものにすぎず,在学契約の解除ではない。
キ原告S関係
(ア)原告S
同原告は,平成14年3月13日までに提出すべき入学手続書類を提出しておらず,第二次入学手続を執っていないから,在学契約の解除条件が成就した。
また,同原告は,被告早稲田大学の電話による問合せに対し,入学を辞退する旨を伝えるとともに,同月20日,所定の入学辞退届を提出し,在学契約を解除する旨の意思表示をした。
(イ)被告早稲田大学
同原告は,第二次入学手続を執らず,口頭及び書面をもって入学辞退の申入れをすることにより,入学資格ないしこれに附帯する権利を放棄したものにすぎず,在学契約の解除ではない。
ク原告T関係
(ア)原告T
同原告は,平成14年3月13日までに提出すべき入学手続書類を提出しておらず,第二次入学手続を執っていないから,在学契約の解除条件が成就した。
また,同原告は,被告早稲田大学の電話による問合せに対し,入学を辞退する旨を伝えるとともに,後日,入学を辞退する旨を記載したはがきを送付し,在学契約を解除する旨の意思表示をした。
(イ)被告早稲田大学
同原告は,第二次入学手続を執らず,口頭をもって入学辞退の申入れをすることにより,入学資格ないしこれに附帯する権利を放棄したものにすぎず,在学契約の解除ではない。
(4)入学時納入金の返還の要否に関する法律上の原因
ア被告ら
(ア)被告青山学院
学校教育法施行規則72条1項,44条,青山学院大学学則17条
は,学年は4月1日に始まり翌年3月31日に終わると規定しており,原告Aは,平成14年4月1日の到来をもって青山学院大学に入学したことになるから,その後に退学届を提出した同原告の法的地位は,退学者であって,入学辞退者ではない。
そこで,被告青山学院は,前記1の(3)アの学費納付規則における退学者に関する定め(以下,被告らが主張する学則におけるこの種の定めを「退学者不返還規定」という。)を置き,同原告もその遵守を誓約していることから,これが在学契約の内容となっているので,同原告に対して入学時納入金を返還することを要しない。
仮にそれを措くとしても,入学試験要項に前記1の(3)アのとおりの記載があり,同原告がこれに同意して受験
した上で入学時納入金を納付したことから,理由のいかんを問わずいったん納付した入学時納入金は返還しない旨の合意(以下,被告らが主張するこの種の合意を「本件不返還合意」という。)が成立した。
そこで,同被告は,本件不返還合意に基づき同原告に対して入学時納入金を返還することを要しない。
(イ)被告関東学院
被告関東学院と原告B及び原告Cとの間においては,在学契約は成立していないものの,学生募集要項及び入学手続要項に前記1の(3)イのとおりの記載があり,前記各原告らがこれに同意して受験した上で入学時納入金を納付したことから,本件不返還合意が成立した。
そこで,同被告は,本件不返還合意に基づき前記各原告らに対して入学時納入金を返還することを要しない。
(ウ)被告慶應義塾
被告慶應義塾と原告Dの間においては,入学試験要項及び入学手続要項に前記1の(3)ウのとおりの記載があることから,本件不返還合意が入学時納入金の納付された段階で成立した在学契約の内容となっている。
そこで,同被告は,本件不返還合意に基づき入学時納入金を返還することを要しない。
(エ)被告上智学院
学校教育法施行規則72条1項,44条,上智大学学則14条は,学年は4月1日に始まり翌年3月31日に終わると規定しており,原告F及び原告Hは,平成13年又は平成14年の4月1日の到来をもってそれぞれ上智大学に入学したことになるから,その後に学費未納により退学措置が執られた原告F及び入学辞退の申入れをした原告Hの法的地位は,いずれも退学者であって,入学辞退者ではない。
ところで,上智大学学則には前記1の(3)エのとおりの退学者不返還規定があるところ,これは普通契約約款としての意義を有する上,入学試験要項や入学手続要項にも同様の記載がされているのであって,在学契約の内容となっているから,これに基づく本件不返還合意により入学時納入金を返還することを要しない。
また,原告E,原告G及び原告Iについても,前同様に同被告との在学契約の内容となっている本件不返還合意に基づき入学時納入金を返還することを要しない。
(オ)被告星薬科大学
原告Jについては,被告星薬科大学所定の書面により入学辞退手続を執っていないので,同被告は,入学時納入金を同被告に返還することを要しない。
また,同被告の学生募集要項には前記1の(3)オのとおりの記載があり,これが同原告との間の在学契約の内容となっているので,本件不返還合意に基づき入学時納入金を返還することを要しない。
(カ)被告立正大学学園
学校教育法施行規則72条1項,44条は,学年は4月1日に始まり翌年3月31日に終わると規定しており,原告Pは,平成14年4月1日の到来をもって立正大学に入学したことになるから,その後に退学届を提出した同原告の法的地位は,退学者であって,入学辞退者ではない。
そして,被告立正大学学園においては,立正大学学則に前記1の(3)カのとおりの退学者に関する定めがあり,これが在学契約の内容となっているので,本件不返還合意に基づき同原告に対して入学時納入金を返還することを要しない。
また,原告K,原告L,原告M,原告N,原告O及び原告Qについては,入学試験要項及び入学手続要項に前記1の(3)カのとおりの記載があり,これが在学契約の内容となっているので,同被告は,本件不返還合意に基づき同原告らに対して入学時納入金を返還することを要しない。
(キ)被告早稲田大学
被告早稲田大学と原告R,原告S及び原告Tとの間においては,在学契約は成立していないものの,入学試験の合格者は学生としての身分を取得し得る資格を得て,大学という部分社会における一定の身分と様々な権利を獲得し,その対価として入学時納入金を納付するものであるが,在学契約締結に至る一連の手続の過程で自らの意思により入学を辞退しても,入学資格ないしこれに附帯する権利を放棄したにすぎないから,入学時納入金を返還する必要はない。
また,入学試験要項,入学手続の手引き等の手続関係書類に前記1
の(3)キのとおりの記載があり,同原告らは,これを了知した上で入学時納入金を納付したものであるから,同被告は,本件不返還合意に基づき同原告らに対して入学時納入金を返還することを要しない。
なお,早稲田大学学則にも前記1の(3)キのとおりの定めがあるところ,この規定は在学契約が未だ成立していない場合においても,その締結過程に入った合格者に対して適用されるというべきであり,これに基づいても入学時納入金の返還を要しない。
イ原告ら
(ア)原告A,原告F,原告H及び原告Pは,在学契約を解除する意向を有していながら,入学時納入金が返還されないものと諦め,3月31日以前に入学辞退の申入れをしなかったのであり,その実質にかんがみれば,同日以前に入学辞退の申入れをした者と区別すべき理由はない。
むしろ,入学式に欠席し,学生証を受領せず,履修登録もしていないので,在学契約を解除する意思は客観的に明らかであり,3月31日以前に入学辞退の申入れを行った者と同様の取扱いをすべきである。
入学辞退の通知をしても入学時納入金が返還されない仕組みが大学側により作られている状況下においては,同原告らに黙示的意思表示以上の行為を期待することができない一方で,大学側は他大学に入学する合格者の発生を当然に予測できるところ,大学側は自らが一方的に定めた入学時納入金不返還の仕組みによってこのような事態を作出しておきながら,辞退の通知がないことの一事をもって,その者を退学者扱いすることは信義則上容認され得ない。
そうすると,被告青山学院と原告Aとの関係,被告上智学院と原告F及び原告Hとの関係並びに被告立正大学学園と原告Pとの関係についても,本件不返還合意(学則における退学者不返還規定が在学契約の内容をなす場合には同規定に基づく合意も含む。
以下特に断らない限り同じ。)の有効性が問題となる。
なお,被告らの援用する学校教育法施行規則72条1項,44条の各規定,青山学院大学学則17条,上智大学学則14条,立正大学学則29条は,大学の事務処理上の便宜のために設けられた規定にすぎず,これらによって学生の地位が定まるものではない。
(イ)原告らと被告らとの間において在学契約の締結に際して行われた本件不返還合意は,いずれも後記(5)のとおり無効であり,被告らが入学時納入金を取得するのは法律上の原因を欠くというべきである。
(5)本件不返還合意の有効性
ア原告ら
(ア)在学契約の法的性質
教育は,教育者と被教育者間の相互の精神的作業であって,継続的関係として行われるのが常態であるから,在学契約の性質を論定する場合には,教育者と被教育者との信頼関係を特に重視すべきである。
そして,在学契約は,継続的債権関係としての特色を有するところ,法律行為でない教育事務を委託することを内容としており,その事務処理に際し受任者たる教育者の自由裁量に任される範囲が広く,教育目的の完成ということはあり得ない点において,雇用や請負とは性質を異にし,準委任契約としての特質を備えている。
したがって,在学契約は,準委任契約との本質的共通点にかんがみ,準委任ないしこれに類似した無名契約と解すべきである。
なお,大学は,教育の公的性質及び政策的見地に立ち,学則により自ら解除権の行使を制限しているのであって,診療契約において診療の拒否が禁止されているのと同様に,一方的に解除することができないとの一事をもって在学契約の法的性質が決定されるものではない。
また,在学契約が多様な要素を包含していることは否定しないが,いずれも教育役務の提供という委任事務処理の本旨から導かれる付随的な要素にすぎない上,被告らの主張する学生としての身分ないし地位という概念については大学側と学生側が在学契約を締結していることに基づく法律状態を説明するものにすぎず,また,普通契約約款という概念は契約の成立形態を説明するものであり,在学契約の法的性質とは関係がない。
(イ)民法651条2項ただし書の適用又は類推適用の可否
a在学契約の法的性格にかんがみると,被教育者にとっては教育者から教育を受ける必要性が失われたときに即座にこれを解除し得ることが必要である。
このような法律関係は,当事者が任意に契約を終了させることを認める委任の解除規定(民法651条)に最も適合するので,これを在学契約に適用又は類推適用すべきである。
また,同条2項は,本文において,委任契約の相手方が不利な時期
に同条1項に基づいて解除するときは,その損害を賠償すべき旨を規定するけれども,ただし書においては,やむを得ない事由があるときは,損害の賠償を要することなく解除をすることができる旨を定めているところ,委任者は,その利益のために前記の事由さえあれば,何らの拘束もなく契約関係から解放されなければならない。
したがって,委任者には,損害賠償を伴わない解除権が留保される
べきであり,これを規定した民法651条2項ただし書は強行規定であって,これに反する特約は無効である。
bところで,入学辞退の申入れは在学契約を解除する旨の意思表示であり,受任者である被告らは委任者である原告らに対して前払に係る費用ないし報酬としての性質を有する入学時納入金を返還すべき義務を負うのであるが,被告らの援用する本件不返還合意は,理由のいかんを問わずその返還を要しないことを内容とするものであり,いったん入学時納入金を納付した以上は入学辞退又は中途退学はできないとの解除権放棄の合意をするのと実質的に趣旨を同じくするものである。
そして,委任事務の処理がそもそも不要になった場合はもとより,
ある特定の受任者に事務を処理してもらう必要性がなくなったときも,民法651条2項ただし書所定のやむを得ない事由があるといえるところ,原告らは,他の大学に入学するため,被告らから教育役務の提供を受ける必要がなくなったため入学を辞退したのであるから,このこと自体がやむを得ない事由に当たるといわなければならない。
cそうすると,理由のいかんを問わず入学時納入金を返還しない旨を内容とする本件不返還合意は,実質的に強行規定である民法651条2項ただし書に反しており,その適用又は類推適用により無効である。
(ウ)民法90条所定の公序良俗違反の成否
a事業者らが契約に関する情報収集力及び交渉力に劣る消費者に対し自己の優越的地位を利用して損失を転嫁させる内容の特約を受諾させた場合には,他人の窮迫,軽率,無経験等に乗じて不当な財産的給付を約束させる行為とまでいえなくても,そのこと自体が社会的相当性がないものとして,特約の全部又は一部の効力を否定すべきであり,この理は,そのような特約が消費者にとって不可欠ないし社会生活上極めて重要な意義を有する契約の付随的条項である場合,他の事業者との間においても同種の問題が生ずるような場合においては,なお一層妥当するというべきである。
b本件で問題とされる入学時納入金は,被告らの教育役務の提供に対する反対給付とすることを予定して支払われたものであるが,入学を辞退した原告らは,被告らから何らの反対給付も得ておらず,仮にその中に入学手続等の事務処理の対価としての部分が含まれているとしても,全額がその対価であるとすることは高額に失し,不合理である。
そして,原告らは,大学への進学を人生における不可欠の過程と考
え,他に進学したい大学がある場合であっても,その合格が未定の段階で浪人生活を避けるために本件不返還合意の存在を知りながら,入学時納入金を納付せざるを得ない立場にある一方,被告らは,原告らがそのような事情にあることを認識しながら,個別的な交渉に応じる必要がないので,両者の間には交渉力において著しい格差があり,被告らは原告らに対し圧倒的に優位な地位にあったものである。
また,入学時納入金の前納及びその不返還の制度については,これ
を不合理なものとして私立学校を非難するマス・コミュニケーションの論調が極めて強く,学校関係者からも同様の発言がみられるようになっているばかりか,文部省(当時。
以下同じ。)も既に昭和50年9月の時点においてこれを徴収できないような運用を目指していたのであって(同月1日文管振第251号管理局長・大学局長の文部大臣所轄各学校法人理事長あて通知「私立大学の入学手続時における学生納付金の取扱いについて」。
以下「文部省昭和50年通知」という。),社会的妥当性を有しない行為というべきである。
なお,希望大学へ進学することは,受験者にとって金銭に換え難い
価値を有し,進学しない大学から入学時納入金が返還されないからといって,これを諦めるようなことはない上,被告らは,各年度の受験者数,合格者数,入学時納入金前納者数及び現実の入学者数の資料を長年にわたって把握し,実際の入学者数を予測することが可能であるから,入学時納入金を納付させなければ入学者数の適切な把握ができないとの被告らの主張は何らの根拠がない。
さらに,入学定員の過不足によって生じる被告らの不利益はそれが
著しい場合に補助金が減額されることがあるというにすぎないところ,被告らが定員を大きく見誤るような事態を想定できないことは前記のとおりであり,現に入学時納入金を納付させていない大学においても格別の不都合は生じていないばかりでなく,そもそも入学手続の期限を遅くした方が実際の入学者数を的確に把握できるとも考えられるのであり,その納入時期の調整によって不返還の措置を正当化することはできない。
c消費者契約法の制定議論が生じた段階で,消費者と事業者間の,情報格差,交渉力の構造的格差から,事業者が自己の「優越的地位を利用して損失を消費者に転換する特約」を受諾させた場合には,そのような特約はもはや社会的相当性を是認し得ないものとして,その全部又は一部の効力を否定すべきであり,「消費者に一方的に不利な条項の効力は維持できない」との価値判断には,高額の違約金・損害賠償予定を合理的な範囲に制限すべきであるという判断が内包されていたというべきである。
d以上の諸点に照らせば,本件不返還合意は,民法90条所定の公序良俗に反するものとして無効である。
(エ)消費者契約法9条の該当性
(ただし,原告A,原告C,原告E,原告F,原告J,原告K,原告N,原告O,原告P,原告Q,原告R,原告S及び原告T関係のみ)a消費者契約法2条所定の「事業者」は,「法人その他の団体」が何らの限定もなく挙げられており,営利法人のほか,公益法人も含まれるところ,受験者において入学を希望する大学との間で情報収集力及び交渉力において大きな格差があることは前記のとおりであるから,このような両者間で締結されている在学契約は,同法による規制の対象である「消費者契約」に当たる。
b入学辞退の申入れは,準委任契約ないしこれに類似した無名契約である在学契約を解除する旨の意思表示であって,本来であれば,被告らは,民法703条,646条1項及び651条2項本文の反対解釈に基づき原告らから受領した入学時納入金を返還しなければならないところ,本件不返還合意は,これと異なる内容を定めるものであり,入学辞退によって被告らに生じる損害を填補する目的であると同時に「入学定員確保」のために在学契約の拘束力を強める趣旨で置かれている特約であり,解除による損害賠償の予定としての性質を有するものと解されるから,消費者契約法9条1号の「損害賠償の額を予定し又は違約金を定める条項」(以下「損害賠償額予定条項」という。)に当たる。
c民法651条1項による解除の場合,消費者契約法9条1号の「平均的な損害」(以下「平均的損害」という。)は,委任が解除されたこと自体(当事者が契約の内容としたことを完了しなかったこと)から生じる損害ではなく,解除が不利益な時期であったことから生ずる損害に限られるべきである。
継続的契約において逸失利益を平均的損害に含めて解釈すると,委
任者は契約を解除したにもかかわらず,これに伴う賠償義務を負担することになってしまい,妥当性を欠く。
この点に関し,文部省昭和50年通知によれば,入学辞退者から授
業料や施設利用料を徴収することは国民の納得を得られないとされており,被告らが入学時納入金全額を取得することに合理的な理由がないことの裏付けとなるというべきである。
そして,語学教室や学習塾をも規制対象とする特定商取引に関する
法律49条2項2号,同法律施行令16条が特定継続役務開始前の解除による違約金を1万1000円ないし2万円に制限していることからすると,これと同じ性質を有する教育役務の提供についても,同程度の損害が発生するにとどまるとみるべきであり,しかも,これらの損害は,入学試験の受験料を受領することにより填補されている。
dさらに,被告らは,大学に定員制を設け,一定の学生数の下で経営を維持しているところ,入学辞退があっても予定どおりに定員を確保した場合,損害は生じない。
そして,平均的損害は,具体的な事案で個別に生じ得べき損害をいうのではなく,同一事業者が多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害を指すのであるから,たまたまある年度に定員割れが生じたというだけでは足りず,例年,入学定員に対し,入学辞退によりどの位の欠員を生じ,それがどの程度大学運営に損失を与えているかを類型的に検討しなければならないところ,被告らは,定員以上に合格者を発表し,定員割れが生じないようにしているから,入学辞退により平均的損害が生じているとはいえないばかりでなく,あらかじめ一定の割
合の入学辞退の発生を見込んで合格者を決定しており,入学辞退の申入れの時期が入学式の直前かどうかによって定員割れによる損害の有無が左右されることはあり得ないし,第1志望とする旨表明して入学試験に合格した者が後日入学辞退をした場合には,一般入試の合格者で補充することも可能である。
e入学者の受入れに伴う人的及び物的教育施設の整備は,大学における収容定員の設定に伴い必然的に用意されなければならないものであり,原告らの入学辞退とこれらの出捐との間に因果関係はない。
fある事業者に前記の意味での平均的損害が生じるか否かは,当該事業者の内部事情にかかわることであり,消費者の側においてそれを把握することは極めて困難である。
そもそも消費者契約法が事業者と消費者との間に情報や交渉力の格差があることにかんがみ制定されたものであることに照らして,消費者に事業者の内部事情を主張立証させることは立法趣旨に反する。
したがって,平均的損害額の存否については,事業者に立証責任があると解するべきである。
g被告青山学院が原告Aとの関係で,被告関東学院が原告Cとの関係でそれぞれ主張する権利濫用ないし信義則違反の点については,入学希望者と大学との間に情報収集力及び交渉力において大きな格差がある以上,浪人生活の危険の回避という利益は複数の大学を受験した者が反射的に受けるものにすぎないので,主張自体失当というべきである。
(オ)消費者契約法10条の該当性
(前記(エ)の該当原告関係のみ)
a本件不返還合意は,前記(イ)bのとおり,民法646条及び651条1項本文と比し,消費者の権利を制限し,又は,消費者の義務を加重するので,消費者契約法10条所定の「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」(以下「権利制限条項」という。)に該当する。
b合格者と大学との間の情報収集力及び交渉力の格差は大きく,両者が個別交渉することすらおよそ考え難いのであって,本件不返還合意は,そのような合格者の弱みにつけ込む形で一方的に不返還合意を押しつけるものであるから,同条の「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」(以下「消費者利益侵害条項」という。)に該当する。
(カ)信義則違反の成否
a原告G関係
同原告による入学時納入金の返還請求が信義則に反するとの被告上
智学院の主張は争う。
b原告J関係
同原告は,国立大学に入学する意向であったので,その母親が受講
させるなどと発言することはあり得ず,同原告の入学時納入金返還請求が信義則に反することはない。
イ被告ら
(ア)被告青山学院
a在学契約の法的性質
在学契約は,学校が学生に対して教育施設を提供し,その雇用する
教職員に所定の課程の授業や教育遂行上の事務を行わせるなどの方法により教育を実施する義務を負い,学生がこのような教育施設に包括的に自己の教育を託し,その指導に服して教育を受け,授業料を納付する義務を負うことを内容とする私法上の契約であり,教育施設利用関係としては賃貸借契約,教育遂行上の事務処理関係としては無形の仕事の請負契約に類似するものの,それにはとどまらず,これにより学生としての身分を取得するという要素をも包含しているから,典型契約のいずれにも該当しない無名契約である。
したがって,在学契約が準委任契約としての側面を包含することは
否定しないが,これに尽きるものではない。
なお,在学契約が準委任ないしこれに類似の無名契約であるとすれ
ば,契約の一方当事者である大学側はいつでも任意の学生を除籍処分に処することができることになるが,そのような解釈が失当であることはいうまでもない。
b民法651条2項ただし書の適用又は類推適用の可否
在学契約の前記aのような性質に照らせば,これに民法651条を
適用又は類推適用することは相当でないばかりでなく,そもそも委任契約が人的信頼関係を基礎にするからといって,中途解約の際の損害の賠償責任が否定されなければならない理由はなく,同条2項ただし書を強行規定と解さなければならないものではない。
また,原告Aが入学辞退を欲すること自体がやむを得ない事由とな
るとの主張は,在学契約が有償契約であることを看過するものである上,一方当事者である被告青山学院が在学契約の解除を欲すれば直ちにやむを得ない事由があるとされることにもなり,不当な解釈である。
c民法90条所定の公序良俗違反の成否
大学には,収容定員があって,これを遵守する義務があり,かつ,
これに基づいて財政計画が立てられているところ,学費はその重要な資金源であり,定数割れは大学教育機関運営の資金計画に重大な支障を来すこととなる一方,定数超過は国庫補助金の削減理由とされているので定員管理は重要である。
ところが,大学は,営利を目的とする語学教室や学習塾と異なり,
学生募集時期が限定されており,補充可能な時期が限られている上,受験生の総数は減少傾向にあり,かつ,1人の受験生が多数校を受験するという実情にあることから,確実に収容定員に足りる入学生を確保することが必要である。
そこで,被告青山学院は,在学契約において本件不返還合意を定め
ているのであって,これによる合格者の早期確定を図る必要性は大きい。
他方,入学辞退者は,希望する大学の入学試験に合格しなかった場
合でも浪人生活を回避できるという利益と入学時納入金が返還されないという不利益とを十分考慮した上で,複数の大学を受験し,複数の大学に入学手続を執っている。
ちなみに,被告青山学院においては,正規合格者に対し,国立大学の入学試験(後期日程)の合格発表がほぼ終了した平成14年3月25日まで入学金以外の入学時納入金の納付期限を延長しており,入学辞退者の不利益に十分に配慮している。
原告Aは,たまたま補欠合格者であったために納付期限の延長が認
められなかったが,補欠合格者の場合は,入学時締切日までに手続をした者は確実に入学するものとして取り扱わないと,それ以降の補欠合格者の要否及び数を判断できないことになり,補欠合格者の入学辞退が定員確保にとって重大な支障を生じさせることになることに照らし,やむを得ない措置であった。
以上の諸点に照らせば,本件不返還合意は,民法90条に反するも
のではなく,有効である。
d消費者契約法9条の該当性
消費者契約法は,「消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに
交渉力の格差」(同法1条)をその前提としているところ,大学における在学契約に関する情報は社会的にも周知されている上,学生側はほぼ無数の選択肢の中から入学を希望する大学を選択することができるのであり,学生側と大学側との間に大きな格差があるとは考えられないから,大学について消費者契約法を無限定に適用することは同法の趣旨に反するというべきである。
したがって,被告青山学院は「事業者」には当たらず,同被告と原告Aとの間の在学契約を「消費者契約」とすることはできない。
次に,本件不返還合意を損害賠償額の予定と解すると,入学時納入
金を全額納付した者と一部を納付した者とが同日時に入学辞退を行った場合には,両者の間で同一の入学辞退に伴う損害額に違いが生じる結果を承認することになり,理論的に妥当でない。
被告青山学院は,平成14年度の入学手続において,正規合格者の
入学金の納付期限である平成14年2月25日までの入学金の払込状況,払込者数,学費等を延納申請する正規合格者の他大学との併願状況を併せ考慮し,多年の経験を基礎に正規合格者のうちの入学者を予測し,これを基礎に補欠合格者数を決定し,そのうち何名が確実に入学するかを確定した上で,次の補欠合格者の有無及び数を決定していたところ,補欠合格者として入学時納入金を納付した者については入学することを前提に次の補欠合格者数及びその有無を決定してしまっていることから,当該補欠合格者が入学を辞退した場合,実際に当該補欠合格者の分について定員確保に障害を生じることになる。
したがって,入学時納入金の全額を納付した補欠合格者である原告
Aについては,入学時納入金全額に相当する損害を平均的損害とみるべきである。
そして,仮に退学者不返還規定が普通契約約款としての在学契約の
内容となっていることから,同条所定の損害賠償額の予定に当たるとしても,大学としては,退学者が出た場合においても,その者をも含めた学生全体のために準備してきた大学教育のための諸種の準備(教育内容の確定,授業・教員の確保,施設の維持・拡大等)及び収支の予算を削減変更することは,少なくとも当該学期ないし年度中においては不可能であり,かつ,退学者の員数を編入学で補充を図ることは困難であるから,退学者の退学学期ないし年度分の学費等が大学側に生じる平均的な損害を超えることはないというべきである。
なお,原告Aと被告青山学院との間に情報収集力及び交渉力におい
て格差がないことは前記のとおりであり,本件は本来消費者契約法が想定した場合には当たらないところ,同原告は,いわゆる浪人生活の危険の回避という利益を実際に得ておきながら,同法9条の適用を主張して本訴請求を提起したものであるから,本訴請求は権利濫用に当たる。
e消費者契約法10条の該当性
本件不返還合意が消費者契約法10条に反し無効であるとの原告A
の主張は争う。
(イ)被告関東学院
a在学契約の法的性質
入学希望者は,入学試験に合格し,入学手続を完了して大学に入学
すると,学籍を付与されて学生としての身分を取得し,学生は,学則等の規則に従うことが要求され,これに違反した場合は懲戒処分を受けることがある一方,大学施設を利用し,授業や講義を受けたり,図書館を利用したり,クラブ活動やサークル活動を行ったり,自主的に研究活動を行ったりすることができる。
そして,学生は,毎年度,大学から成績評価を受け,評価基準を超えた場合には単位を取得し,一定単位を取得した場合には上級の学年に進級することができ,さらに大学が定める必要な単位をすべて取得した場合には,卒業の認定を受け,大学から学位を授与されて卒業することになる。
したがって,在学契約は,このような大学と学生との複雑かつ多様
な関係のすべてを含む特殊な契約であり,しかも,単なる経済的価値の提供を目的とする取引契約とは異なり,教育活動を行うことを内容とする契約であるから,民法の典型契約には当てはまらない無名契約というべきである。
なお,公教育としての性質を有する大学教育を行うことは単なる事
務処理ではないし,準委任契約という法的性質によっては,前記のような大学と学生との関係を説明することはできないばかりでなく,委任契約に関する民法の諸規定のほとんどは,在学契約における前記の法律関係に適用されることが予定されていないとみるべきである。
b民法651条2項ただし書の適用又は類推適用の可否
そもそも入学辞退の意思表示は,申込みの撤回であり,解除の意思
表示ではない。
在学契約の性質に照らすと,これが準委任ないしこれと類似の無名契約ではないことも明らかであるから,民法651条を適用又は類推適用することはできない。
c民法90条所定の公序良俗違反の成否
公序良俗違反により無効となるのは,他人の無思慮,窮迫及び無経
験に乗じて甚だしく不相当な財産給付を得る場合(いわゆる暴利行為)や当事者間の合意が一方に不利であるなど,著しく不公正である場合である。
ところで,被告関東学院においては,既に収容定員を前提に人的,
物的設備等の環境を整えており,本件不返還合意により入学者の早期確定を図り,また,私立大学として定数割れによる財政不足を最小限に止める必要性が高いのに対し,入学辞退者も,利害得失(その年の受験に失敗し浪人をするという不利益と,より高いランクの志望校を目指すため等の利益がこれに該当する。)を十分に考慮した上で,複数の大学の入学手続を行っているのである。
ちなみに,同被告においては,入学時納入金の分割納付制度を設け,最終納付期限をほとんどの私立大学の合格発表が終了した後に設定し,入学辞退者の不利益に十分に配慮している。
そして,被告関東学院は,公教育を行う公益法人であって,営利を
目的としないから,暴利を得るとか暴利行為に当たるといった議論は当てはまらない。
また,入学時納入金制度は,我が国において古くから認められてい
る制度であり,この制度を基礎として我が国の大学受験における受験システムが構築され,受験生にいわゆる滑り止め受験を認め,在校生の学費軽減に役立ったりしているのであり,社会的に十分認知されている制度である。
さらに,経済的視点からみれば,滑り止めの利益を享受した上で,
被告関東学院に入学辞退を申し出た者には,入学時納入金相当額程度の負担をしてもらい,これを同被告において教学のための費用に使用し,新入生を含む在学生の学費軽減に役立てるというものである。
なお,原告らの指摘する文部省の通知には法的拘束力はなく,その
文理からして個々の私立大学の財政事情等によりある程度の裁量を許容しているものと解される。
以上の諸点に照らせば,本件不返還合意は,民法90条に違反せ
ず,有効である。
d消費者契約法9条の該当性
被告関東学院は,教育基本法及び学校教育法に基づき公教育の一端
を担う私立大学であって,設置から運営に至るまで種々の規制や行政指導を受けているのであり,消費者契約法が予定する単なる営利目的業者とは一線を画するので,「事業者」には当たらない。
また,在学契約の内容は周知であり,特別な知識経験,交渉力を必
要とするような複雑な状況が存するわけではなく,私立大学と入学希望者との間に情報の質及び量等に差はないと考えられるので,入学希望者は,「消費者」に当たらない。
そして,在学契約は,単なる経済的価値の移動を目的とする取引契
約とは異なり,身分取得等をその内容とする特殊な無名契約と解すべきであり,消費者契約法が想定する消費者契約とは全く異質な契約であり,同法の適用にはなじまない。
したがって,原告Cと同被告との間の在学契約は,同法所定の「消
費者契約」に当たらない。
仮に,在学契約について消費者契約法が適用されるとしても,入学
辞退の意思表示は,申込みの撤回であり解除ではないし,また,原告Cは,自らの利害得失を慎重に考慮した上,他大学に合格し入学辞退をした場合には,入学時納入金の返還を請求する権利を放棄するとして本件不返還合意をしたものであって,同合意は,損害賠償額予定条項には当たらない。
次に,被告関東学院は,入学試験合格者の入学辞退によりその者が
納付するはずであった授業料等を取得できないという損害を被ることになるのであり,関東学院大学経済学部についていえば,4年間の授業料等の合計約400万円がこれに当たる。
そして,同被告が学生を受け入れることができるのは1年に1度の入学時(学年の始め)に限られ,学年の途中に学生を補填することはできないばかりか,当該入学予定者の在学予定期間である4年間にわたり,当該学年の学生を補填することはできない。
仮に学年を無視して学部全体で学生数を考えて前年度の入学辞退者の数を次年度の入学者数で調整するとしても,次年度における収容定員との関係上,この方法にも限界がある。
入学辞退が補欠合格発表よりも後であれば,これにより入学予定者
を補填することはできない上,そもそも補欠合格者についてもその者が入学する保障がないから,入学辞退による平均的損害は,4年間の授業料の合計額約400万円,少なくとも初年度の授業料等の合計額123万7800円を下回ることはあり得ない。
したがって,原告Cが関東学院大学経済学部の入学を辞退したことにより生じた平均的損害は,入学時納入金に相当する77万8800円を下ることはない。
また,入学試験合格者の入学辞退により学生数が収容定員に満たなくなった場合には補助金の減額理由となり,在籍学生数の収容定員に対する割合が50パーセント以下になると当該学部に対する補助金の全額が交付されないことになる。
これにより被告関東学院は減額された補助金相当額あるいは補助金全額相当額について損害を被ることになり
,同被告に入学時納入金に相当する金額を超える平均的損害を生じることは明らかであり,定員制を採用しているか否か,過去に定数割れが発生したか否かは,平均的損害を算定するに当たって考慮する必要はない。
さらに,平均的損害額の算定に当たっては,私立大学がその公共的性格に基づき法令による各種制限を受け,任意に定員,物的・人的設備を増減することができない仕組みとなっていることを考慮すべきである。
同被告は,在学契約が成立したことにより,今後4年間にわたり授業料等の支払を継続的に受けられることを前提に,人的及び物的設備を整備しており,平成14年度の学生1人当たりに要した人件費及び教育研究経費は102万4647円(人件費及び教育研究経費の合計支出額である124億4844万5628円を在籍者数の1
万2149名で除した金額)であり,入学時納入金相当額を上回るところ,入学試験合格者が一方的に入学を辞退した場合には,これらの支出が無駄になる。
このように,同被告が入学辞退により被る損害は,各種資料の送付や印刷経費等にとどまるものではない。
なお,前記のとおり,原告Cと被告関東学院との間には情報収集力
及び交渉力において格差がなく,本件は本来消費者契約法が想定する場合ではないところ,同原告は,浪人生活の危険を回避するという利益を実際に得ておきながら,消費者契約法9条の適用を主張して本訴請求を提起したものであるから,本訴請求は権利濫用に当たる。
e消費者契約法10条の該当性
原告Cは,前記のとおり,本件不返還合意により相応の利益を得て
いる以上,その利益を一方的に害するものではないから,同合意は消費者利益侵害条項に該当しない。
(ウ)被告慶應義塾
a在学契約の法的性質
在学関係は,学校教育が個人教育とは異なり,人的物的施設を用い
て一定の体系及び編成に従った大学という組織体によって行う集団的教育であることから,教職員組織という人的要素と教育施設及び設備という物的要素が不可欠であり,また,組織体としての機能維持のために学則等による規律が必要である結果,学校側の教育役務の提供及び教育施設を利用させる義務並びに学生側の授業料納付や学則を遵守し,学校による指導監督に服する義務とを要素とする法律関係である。
しかも,前記のような法律関係は,大学側の裁量によって定められるものであり,このような性質を反映して,在学契約は,民法上の典型契約とは異なる複合的な要素を内容とする非典型の無名契約であり,かつ,文部科学省により認可,監督(学校教育法3条,学校
教育法施行規則3条,同4条,同66条,大学設置基準等,大学設置審査基準要項ほか,文部省昭和50年通知,平成14年5月17日14文科高第170号文部科学省高等教育局長通知「平成15年度入学者選抜実施要項について」(以下「文部科学省平成14年通知」という。)ほか)を受けた学則等(入学試験要項,入学手続要項も含む。)の定めを主たる内容とする複合的な非典型双務有償契約である。
なお,在学契約を準委任契約ないしこれと類似した無名契約と解す
ることは,教育内容が当事者間の個別合意ではなく,大学側の作成した体系的かつ定型的な内容で定められること,教育施設及び設備の利用が不可欠であること,被教育者が所定の課程を修めると終了すること,大学側に懲戒権が認められていることと符合しない上,委任契約に関する民法の諸規定を在学契約に適用することは,不当な結果を招き,立法者が想定した域を越えることになるから,妥当でない。
b民法651条2項ただし書の適用又は類推適用の可否
在学契約は文部科学大臣等から認可・監督を受けた学則等の定めが
その主な内容になっていると解されるのであって,学校法人又は学生がそれぞれ在学契約を解消(入学辞退又は退学)する場合においては,その要件及び効果は学則等が規定するところによって決せられると解されるので,単純に典型契約の意思解釈補充規定(任意規定)にすぎない民法651条を適用又は類推適用することは相当でない。
また,委任契約の解除の規定を在学契約に適用又は類推適用するこ
とは,同被告がいつでも理由なく学生を退学処分にできるということであり,社会通念上到底容認できない結論を導くものである。
在学契約において,当事者の一方が契約の解除を欲すれば,そのこ
と自体がやむを得ない事由となると解することは,当事者の一方である学校側が入学予定者との在学契約を一方的に破棄することを許容する結果となり,常識に反する。
c民法90条所定の公序良俗違反の成否
(a)公序良俗に反するか否かは,法律行為のなされた時点の公序に照らして判断すべきところ,本件における原告Dとの在学契約は平成9年に締結されたものであり,同年には平成5年度の入学辞退者からの返還請求を棄却する最高裁判所の判断が示されており,これと本件との間には時期的にさほどの違いがないばかりでなく,原告らの指摘する文部省昭和50年通知は,入学時納入金不返還合意の有効性を前提にしながら,入学時納入金のうち入学金以外について合格発表後短期間内に納付させるような取扱いを避けるように指導するものである。
(b)被告慶應義塾は,他大学への入学希望者に配慮して入学時納入金の分割納付制度を設け,その最終納付期限を国立大学の後期日程試験の合格発表日の後に設定しているが,その後に引き続く追加合格の発表や入学者の受入準備を円滑に実施するため,在学契約中に本件不返還合意を定め,少なくとも最終納付期限の時点で入学手続を完了していた者が入学辞退するような事態を防止するように努めている。
その際,同被告が収容定員に見合うだけの入学者を確保することは,財政基盤を確立する上で必須であり,追加合格の発表の手続の円滑をないがしろにすることはできない。
(c)本件不返還合意は,被告慶應義塾に限ったものではなく,多くの私立大学において,さらに東京大学,京都大学を始めとする多くの国立大学においても,同被告とほぼ同じ制度を採用している。
(d)原告Dが入学を辞退したのは,平成9年4月1日であり,遅れた理由は「神戸大学追加合格のため」であるところ,既に同被告としては補欠合格を打ち切った後にこのような他大学の追加合格まで配慮して納入期間を設定することは到底不可能である。
以上の諸点に照らせば,本件不返還合意は,民法90条に違反せ
ず,有効である。
(エ)被告上智学院
a在学契約の法的性質
在学契約においては,大学側に教育役務を提供する義務のみなら
ず,これに伴う教育施設を提供する義務等が課せられる一方,学生側には授業料等の支払義務のみならず,勉学に努める義務や学校の指導監督に服する義務等が存するほか,その契約内容は,大学側が制定する学則以下の諸規則によって定まるという点で附合契約の性質を有しており,また,学生の地位を取得して大学という部分社会に加入するという身分取得的要素を有し,大学が学生に対し懲戒処分を課すことも認められている。
したがって,これらの特色を有する在学契約関係は,委任ないし準
委任というような取引法原理に基づく権利・義務で律し切れるものではなく,教育基本法,学校教育法を始めとする教育法の原理・理念によって支配され,かつ,学則等の大学の諸規則によって律せられる教育法上の特殊な無名契約であるか,教育法やその理念により規制され,修正された私法上の無名契約というべきものである。
b民法651条2項ただし書の適用又は類推適用の可否
在学契約の法的性質に照らせば,これが準委任ないしこれと類似の
無名契約ではないことは明らかであるから,民法651条を適用又は類推適用することはできない。
次に,たとえ在学契約について委任契約と類似した性質が存し,民
法651条の適用又は類推適用の余地があるとしても,契約自由の原則から民法651条の解除権を制限したり,放棄したりする特約は有効である。
そして,そのような解除権放棄の特約を付した場合でも,解除自体ができないということはなく,解除は可能であるが,そのことにより生じた損害を填補しなければならないとの効力を有するにとどまる。
なお,民法651条の解除権に係る規定は,個人間の信頼関係を基
礎とする無償契約を前提とした条項であり,有償契約についてはむしろ放棄の特約が推定されるべきであって,同項の適用ないし類推適用を想定することはできない。
また,本件不返還合意は,在学契約についての解除自体ができない
旨を定めたものではなく,上智大学への入学を辞退しようとする者は,学生たる地位を得る権利を放棄し,又は,在学契約を解除することはできるが,対価たる学生の地位を得る権利を既に取得している以上,その後,権利を放棄しても対価は払い戻されないとの趣旨である。
その上,民法651条2項ただし書のやむを得ない事由とは,委任
事務を処理することが全く不要になったことなどを指し,委任者が何人かにその事務を処理してもらう必要性自体が消滅していない場合は含まれないから,他の大学に入学するという理由は前記事由に当たらない。
なお,同項所定の損害とは,解除自体から生じる損害ではなく,解除の時期が不当であったことから生じる損害を指し,受任者の報酬請求権及び費用償還請求権をも含めて軽減する趣旨ではない。
c民法90条所定の公序良俗違反の成否
入学時納入金は,大学という身分社会に加入し,学生たる地位を取
得する対価であり,その中でも授業料は,前記取得の対価というにとどまらず,その授業料に対応する期間,学生の地位を保持するための対価としての性質も有する。
したがって,入学時納入金を納付した者は,4月1日の到来によって自動的に学生の地位を取得し,何人もその者が取得した地位を奪うことはできないから,入学時納入金の果たすべき役割は終了したものである。
次に,大学は,収容定員に対応して教育のための施設・設備や図書
等を用意し,あるいは必要な人員を雇用するなど各種の準備のための支出を行っているところ,定員割れを理由に一度準備した人員を解雇したり,整備済みの施設・設備への投資をなかったことにすることはできない上,学生に対して追加負担を求めることも許されないから,定員割れによる損害はすべて大学が負担することになる。
その反面,定員超過の場合には,これらの施設・設備への追加投資や人員の増加のための支出を迫られることになる。
また,定員割れ及び定員超過が補助金の減額又は不交付の理由となることがあるばかりでなく,定員割れにより経営難に陥り,大学の閉鎖・廃止又は破産に至った場合には,法人自体が解散しなければならないことになる。そして,
定員割れによる授業及び研究の劣化も懸念される。
特に,被告上智学院においては,少人数クラスによるきめ細やかな教育指導を行っていることから,そもそも人数の調節が困難であり,定員割れによる損害は他の大学よりも大きい上,補欠合格による補充についても事務処理上の負担が大きく,限界がある。
そして,4月1日から役務提供等の契約義務を履行するという趣旨
から,同被告は,少なくとも事前に,上智大学への最終的な入学者を確保し,かつ,確定する必要がある。
そこで,被告上智学院としては,定員に見合うだけの入学者を確保
しなければならず,本件不返還合意及び入学予定者側の熟慮期間と大学側の事務処理の日程を考慮した入学時納付金の納付期限によって最終的な入学者の確定を図る必要がある。
なお,同被告においては,本件不返還合意の下でも,分割延納の制
度を利用することにより,3月22日前後の残金納付期限まで,入学金のみの負担で学生たる地位を保持することができ,残金の納付は,前記期限までに行えばよく,同期限は事務的にみても役務提供等の契約義務履行の準備に間に合う日(3月22日前後)に設定されている。
これに対し,入学試験合格者は,その利害得失を十分に考慮した上
で,前記日程の許す範囲で,複数の大学の入学手続を行い,学生たる地位を取得する権利を保持し,その効用を維持することができる。
なお,原告らの指摘する文部省昭和50年通知には法的拘束力はな
く,不返還合意の有効性を前提にしながら,入学時納入金のうち入学金以外について合格発表後短期間内に納付させるような取扱いを避けるように指導するものである。
これが入学時納入金をすべて返還すべきとの趣旨でないことは,国(これを所管する文部科学省)の設置する国立大学においても,入学辞退者の納付した入学金(平成15年度では,初年度納付金の約35%相当額を占める)については,返還を行っていないことからも明らかである。
以上の諸点に照らせば,本件不返還合意は,民法90条に反せず,
有効である。
d消費者契約法9条の該当性
在学契約の性質は,前記aのとおりであって,取引法の原理・論理
では律し切れない契約類型に属するものであり,大学は,入学予定者が入学を辞退すると,代替する者を見つけることが非常に困難であること,収容定員を遵守しなければならないという制約があるにもかかわらず,事業規模の調整が非常に困難であること,定員制を採っているため,入学辞退による収入の減少を1年で調整することができないことにかんがみると,交渉力の面での大学と入学志願者との格差は非常に小さいものであるというべきである。
以上に加え,被告上智学院は,上智大学・学部の教育,研究の内容等入学志願者の進路選択にとって参考となる情報を多様な方法により受験生に分かりやすい形で積極的に提供するよう配慮するとともに,各地区での大学説明会
やオープンキャンパス等を通じ,最大限の情報提供を行うこととしており,この面でも情報格差に手当てがされているから,在学契約は,消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差の大きい範疇には属しない。
したがって,在学契約は,「消費者契約」には当たらないというべきである。
次に,入学時納入金は,大学という身分社会に加入し,学生たる地
位を取得する対価であり,このような地位の取得が既に生じている以上,出捐の目的は達せられているのであって,その後において,自らの意思でその地位ないし身分を放棄したからといって,大学がその取得の対価を返還しなければならないものではない。
したがって,本件不返還合意は,損害賠償額予定条項に当たらない。
また,被告上智学院は,入学辞退により,その者の入学を信じて行
った施設や設備の整備,教職員の雇用に係る経費等の準備に関する費用に相当する損害を受けるが,少なくとも同被告における人件費と教育研究経費の学生1人当たりの額(単純計算では,両経費の合計額である146億3500万円を学生数の1万1697名で除した結果求められる125万1176円である。)に相当する損害が発生する。
そして,入学試験の合格発表後,入学金の支払期限を経て,前期授業料納付期限までの入学辞退であれば,同被告としてもある程度の歩留まりを予測し,欠員が生じると判断される場合は,補欠合格者による補充も可能であるが,それ以降の入学辞退になると,その者に対して履行の提供行為を行っているか,その準備行為を済ませてしま
っている上,時期的にも入学日の直前であるから,損害を回避する可能性はほとんどない。
そこで,前期授業料納付期限を経過した後に入学辞退をした者については,前記のとおり少なくとも平均して125万1176円の損害が発生することになる。
なお,原告らの入学辞退の時期の相違による損害回避可能性の違い,学部ごとの履行費用の相違等を勘案して計算すると,原告Eについては,105万7696円,原告Fについては,158万9796円の損害となる。
その上,被告上智学院は,入学辞退により,その者が納付したであ
ろう4年分あるいは1年分の授業料等を得ることができず,それに相当する額の損害を受ける一方で,これによって大学が支出を免れる額はほとんど存在しない。
そして,前期授業料納付期限経過後の入学辞退になると,同被告としては,その者に対して履行の提供行為を行っているか,その準備行為を済ませてしまっている上,時期的にも入学日の直前であるから,損害の回避可能性はほとんどない。
そこで,前期授業料納付期限を経過した後に入学辞退をした者については,1年分あるいは4年分の授業料等に相当する額から損害回避が可能と推定される額を差し引いた額(1年分の学費を基礎にすると,原告Eにつき101万7016円,原告Fにつき152万8650円,4
年分の学費を基礎にすると,原告Eにつき327万8275円,原告Fにつき524万5050円)の損害が平均して生じることになる。
さらに,被告上智学院は,入学辞退により定員割れを起こした場
合,補助金を減額されるという損害を受けることがあるところ,収容定員の定めは,経営上の適正管理を想定して定められているものではないから,収容定員と損益分岐点とは関係がなく,定員割れとの関係で意味があるのは,補助金の削減等の問題だけである。
収容定員を超えていても,当該超過する入学者分に対する準備費用が存在する以上,信頼利益や履行利益の損害が同被告に生じるのであって,このことは,例えば,決算が黒字の企業における契約の解除や,販売目標を超えた分の契約の解除の場合にも供給者側に損害が生じることにかんがみれば,明らかである。
e消費者契約法10条の該当性
在学契約については,前記のとおり,民法652条を準用すること
は相当でない。
また,入学時納入金を返還しないという取扱いは,民法650条の
趣旨に則ったものである上,当事者の情報収集力及び交渉力に格差がなく,本件不返還合意は,入学手続要項等に記載され,在学契約の内容として明らかにしている上,学生たる地位は原告らが求めたものであるから,本件不返還合意は,消費者利益侵害条項には当たらない。
さらに,入学時納入金は,大学という身分社会に加入して学生たる
地位を取得する対価であり,その支払により学生としての地位が取得されていることから,本件不返還合意は,たとえ支払後に地位の放棄等が生じても,支払により出捐の目的が達せられていれば,返還はしないとの規定であると解せられるところ,その趣旨を注意的に学則に明記することが,信義則に反し一方的に消費者を害するものであるとされる理由はない。
そして,少なくとも原告らはその支払に係る反対給付に当たる学生としての地位を得ているか,あるいはその地位を取得する権利を有することによって利益を享受した上でその権利を放棄した者であり,前記条項により自己の利益を一方的に害されたという場合には該当しない。
f原告Gの請求につき信義則違反の成否
原告Gは,専願を条件とする推薦入試を受験し,他大学を受験しな
いこと又は受験しても第1志望としないことを確約して優先的に入学すべき地位を確保していながら,他大学への進学を理由に入学を辞退しているのであって,このことは,被告上智学院を欺き,愚弄することに等しく,同原告が享受したところの将来当該大学に入学し得る確定的な地位を保有する対価ともいうべき入学時納入金について返還を求めることは,信義則上認められるべきものではない。
(オ)被告星薬科大学
a在学契約の法的性質
在学契約は,教育に関する私法上の契約であり,教育基本法の教育
理念に基づき,大学において,学術の中心として広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的道徳及び応用能力を展開させることを目的として,学生が自発的に研さんを積むための人的及び物的教育環境を提供して,原則として卒業資格を付与するまでの4年間,継続的に,学校の雇用する教職員をして所定の課程の授業や教育遂行の事務を負わせて,各種の修学指導をするのに対し,学生としての地位に基づく権能として,このような人的及び物的環境の下で包括的に自己の教育を託し,その指導に服して教育を享受し得ることを内容とする複合的かつ多様な性質の無名契約である。
したがって,その法律的性格も単純な準委任ないしこれに類似する
契約ではあり得ず,また,役務の提供と授業料の納付義務という単なる経済的価値の交換的提供を目的とする対価的取引契約とも異なり,人的信頼関係を基礎にして継続した債権契約であるという特質を有するばかりでなく,その契約内容が集団的に学則その他によりあらかじめ定められており,学則の個別の条項について合意がなくても法的拘束力を持ち得るという点では,普通契約約款による附合契約の性質を有するというべきである。
b民法651条2項ただし書の適用又は類推適用の可否
在学契約の法的性質に照らすと,これが準委任ないしこれと類似の
無名契約ではないことは明らかであるから,民法651条を適用又は類推適用することは相当でない。
c民法90条所定の公序良俗違反の成否
大学は,入学試験に基づき一度合格通知を出した以上,入学時納入
金を納付し,入学の申込みをした者の入学を拒むことができず,限りある人的及び物的資源を当該合格者のために入学から卒業までの少なくとも4年間にわたり確保しなければならない義務を負う。
これに対し,当該大学の入学試験に合格した者は,結果として複数
の大学から合格通知を得ることも珍しくなく,その場合には大学の進学について自由に選択権を行使でき,入学時納入金は,合格をした者が将来的に安んじて当該大学への入学資格を保持することができる対価と目すべきものである。
そして,前記の合格をした者の利益と大学側の不利益を比較した場
合,大学側が6か月分の授業料に相当する入学時納入金を受領することには合理性が認められる。
入学時納入金の前納及びその不返還の取扱いは,合理的かつ妥当な
制度として長年にわたって事実たる慣習として既に社会に定着している。
以上の諸点に照らせば,本件不返還合意は,民法90条に違反せ
ず,有効である。
d消費者契約法9条の該当性
在学契約については,特定の大学の学生という身分を発生させると
いう性質に照らすと,契約当事者間の代替性を認め得ない専属性を有する雇用契約との類似性があると考えられるのであって,これによると,在学契約の解除は,民法651条ではなく,同法627条2項をもって律することができ,その解除の意思表示は,次期以降に対してのみ行うことができると解されるので,本件不返還合意は,解除権行使の効果を定めたものではない。
また,入学予定者が4月1日以前に納付する入学時納入金は,実質
的には入学を保持できる権利に見合うものであって,在学契約自体を維持又は継続する対価や違約金としての性質を有するものではない。
したがって,本件不返還合意は,損害賠償額予定条項に当たらな
い。
また,大学の使命とする教育,研究,事業計画は,包括的,一体的
なものであり,その経営は大学と個々の学生との個別的な対価関係,収支関係のみによって立てられるわけではない。
したがって,入学辞退者が在学契約を解除したことを理由に1日たりとも登校することなく,教育的な役務提供を具体的に享受しなかったとしても,これをもって被告星薬科大学があらかじめ用意を整えている実際の人的及び物的教育施設を具体的数値をもって定量的に減少し得る関係になく,その者が支出した入学時納入金を含めて策定し,執行する大学運営のための予算の減縮に何ら影響を与えるものではない以上,入学辞退による学費等の減収はそのまま同被告の収益の減少を意味し,その全額をもって平均的損害とみるべきである。
e消費者契約法10条の該当性
本件不返還合意は,前記のとおり,民法627条2項と同じ内容を
定めたものであるから,消費者利益侵害条項には当たらない。
f原告Jの請求につき信義則違反の成否
原告Jは,平成14年3月23日,被告星薬科大学に入学時納入金
の返還を求めた際,その母親が前期授業を受ける権利があるので受講させる旨を同被告の担当者に告げており,このような言動をしておきながら,入学時納入金の返還を求めることは信義則上許されない。
(カ)被告立正大学学園
a在学契約の法的性質
在学契約は,単なる役務提供契約と解することはできず,学問とい
う真理探究活動を教授と学生及び学生同士が相互に影響し合いながら切磋琢磨していく側面,施設や設備等の営造物利用の側面,学生としての地位を取得する身分契約的側面等,多面的な性格を有している。
したがって,在学契約は,役務の提供に関する準委任的な側面と大
学という自治共同体への参加権取得に関する身分契約的側面とが不可分一体となっている特殊な無名契約ともいうべきものである。
b民法651条2項ただし書の適用又は類推適用の可否
在学契約の法的性質に照らすと,これが準委任ないしこれと類似の
無名契約とはいえないことは明らかであるから,民法651条を適用又は類推適用することは相当でない。
c民法90条所定の公序良俗違反の成否
入学辞退の場合における入学時納入金の不返還の合意は,長い歴史
の中で当然のこととして運用されてきた事実があり,これを制度として原告らも理解していた。
相当時間余裕をもって事前に十分な情報提供がなされており,か
つ,原告らも援用する文部省昭和50年通知によって,入学時納入金納付までの時間的余裕も与えられている。
被告立正大学学園には,収容定員があり,これを遵守すべき義務を
課せられているのであって,定数超過は国庫補助金の減額事由となり,大幅な定員割れでは経営が成り立たない。
したがって,受験生の減少傾向を背景にして,補助金がなければ現実的に経営が成り立たない財政状況,受験生が滑り止めに複数の大学を受験する現実等をも踏まえた場合,定数確保のための確実な手段として入学時納入金を受領する制度は極めて合理的であり,現状では,これに代わる他の有効な手段は存しない。
被告立正大学学園においては,本件不返還合意により入学者の早期
確定を図る必要性が高いのであって,他方,入学試験合格者も,その利害得失を十分に考慮した上で,複数の大学に入学手続を執っている。
ちなみに,同被告においては,仮入学手続や授業料の分割納付といった制度を設け,入学辞退者の不利益に配慮している。
大学側は,入学試験の合格者に対し,入学予定者としての曖昧かつ
独特な地位を認め,かつ,入学予定者からの一方的な入学辞退を認めてきたことからすると,入学時納入金の前納及びこれを返還しない取扱いが大学側にとって著しく有利な制度であると断定することはできない。
被告立正大学学園は,学校法人であり,公益法人として,収益分配
や残余財産の分配が行われず,暴利を得てきたことがない上,むしろ返還しないことで在学生の教育内容の充実,学費の軽減に配慮してきた。
仮に,入学時納入金の前納及びこれを返還しない取扱いを止めて補
欠・追加合格を安易に認めるようになると,入学者の学力水準の低下,立正大学のイメージの低下は避けられない。
以上の諸点に照らせば,本件不返還合意は,民法90条に反せず,
有効である。
d消費者契約法9条の該当性
大学は,公的な性質を有し(教育基本法6条,1条),授業料,入
学料その他の費用徴収に関する事項が学則の絶対的記載事項とされ(同法施行規則4条7号),しかも,それらを文部科学大臣に対する認可申請書又は届出書に添付するものとされ(同規則3条),さらに,学費の納付時期に関する通達も出されており,これに従って学生に配慮した運営がされている。
また,在学契約は,前記aのとおり,多面的な性質を有し,かつ,
特殊な無名契約であり,定型的教育役務を提供するような自動車学校や語学学校などにおける役務とは異なり,商品としての教育役務の提供というような財産法的な側面が強調されることもない。
したがって,被告立正大学学園が締結する在学契約は,「消費者契
約」に当たらない。
次に,入学辞退の申入れは,単に入学し得る地位又は権利の放棄で
あって,同条の「解除」には当たらない。
また,同条所定の「損害賠償」や「違約金」は,原告の債務不履行
があって初めて発生するものであると考えられるところ,少なくとも入学前の段階では,原告らは入学できる権利を取得しただけであって,何らの債務を負担しておらず,債務不履行責任は発生し得ない。
また,入学時納入金は,入学できる権利を取得するために,合格者の支払うべき対価ともいうべきものであり,在学契約の解消とともに,返還しなければならない性質のものではない。
したがって,本件不返還合意は,同条の損害賠償予定条項に当たらない。
さらに,被告立正大学学園は,入学者が具体的に決定してから,入
学に向けた準備を始めるのではなく,入学者が決定する何か月も前から入学者数を推定し,入学者が納付するであろう学費等を引当てとして,人的及び物的設備を確保するのであり,そのため入学試験に合格した者がいったん入学の意思を表明したにもかかわらず,同被告が合格者の他大学受験などの事情を考慮して決定した入学時納入金の納付期限を過ぎて入学を辞退する場合,必ずしも補欠合格による補充が可能とは限らず,他方で,入学辞退者に合わせて事業規模を縮小できない以上,類型的に考察すれば,大学には入学者が1人減少したことによる損害が確実に生じることになる。
したがって,1人の合格者が入学しないことによって,少なくとも学生1人の4年分の学納金
が大学に支払われなくなるのであるから,その損害額は入学時納入金に相当する額を上回る。
e消費者契約法10条の該当性
被告立正大学学園は,すべて情報を開示しており,信義則違反とい
うことはできないから,本件不返還合意は消費者利益侵害条項に当たらない。
(キ)被告早稲田大学
a在学契約の法的性質
在学契約の締結により,学生側は,単に授業を受けるにとどまら
ず,図書館,学生会館,コンピューター装置,福利厚生施設等,大学の諸施設やその提供する様々な便益を利用し得る権利ないし身分を取得する一方,大学側には,授業を実施するだけでなく,人格の完成を目指し,心身ともに健康な国民の育成を期して教育する責務があり,その範囲は学生が自らの勉学機会を満足するように大学施設や図書等の資料を充実させ,これを提供し,学生の自主的課外活動を支援し,卒業後の進路指導をも行うほか,さらに,学生が一定の学問水準まで到達し,社会人としての人格を備え持つように指導することにまで及ぶものである。
したがって,在学契約は,これらの諸要素が複合して形成されてお
り,学生の身分を取得することを中核とするそれ自体独特の性格を有する無名契約というべきであり,典型契約の一類型にはめ込み,その論理をもって律することは失当である。
b民法651条2項ただし書の適用又は類推適用の可否
在学契約の法的性質に照らすと,これが準委任ないしこれと類似の
無名契約ではないことは明らかであるから,民法651条を適用又は類推適用することはできない。
c民法90条所定の公序良俗違反の成否
大学の使命に照らすと,教育,研究に係る事業計画は包括的一体的
なものであり,その経営は大学と個々の学生との間の個別的な対価関係,収支計算関係のみによって立てられるわけではない。
すなわち,被告早稲田大学は,原告R,原告S及び原告Tが納付する入学時納入金を含めた多くの入学予定者の入学時納入金を基に大学運営の予算を策定し,執行するのであって,同原告らが入学を辞退しても,同被告が同原告らのために用意し整えた人的及び物的な教育施設はいささかも縮小されず,何ら影響されないのであり,同原告らが入学辞退をしたところで,同被告にとって向こう4年間又は3年半の授業料等の収入を逸した損失こそあれ,何らの利益ももたらされない。
他方で,同原告らは,その利害得失を十分に考慮した上で,複数の大学の
入学手続を行っている。
また,早稲田大学の一般入学試験においては,初年度第1期授業料
等の納入時期を国立大学の入学試験(後期日程)の合格発表後としており,合格者が不当に不利益を被ることがないように配慮されている。
創成入試及び総合選抜においては,それより前に入学時納入金の納付期限が定められているが,同入試は当該学部を第1志望とすることが受験資格とされており,他大学への進学は予定されていない。
以上の諸点に照らせば,本件不返還合意は,他人の窮迫,軽率,無
経験などに乗じて不当な財産的給付を約束させたものではなく,民法90条に違反せず,有効である。
d消費者契約法9条の該当性
被告早稲田大学は,すべての入学及び在学条件を何ら隠すことなく
全面的に開示しており,大学と受験者との間に情報の格差は存しない。
そして,在学契約の締結に当たっては,大学側が積極的に働きかけることはなく,いわば常に受け身であり,入学するか否かも専ら合格者の任意の判断によるものであるから,およそ消費者契約法が予定する交渉力の格差は想定し得ない。
また,在学契約は,前記aのとおり,一種身分契約的な性格を有する。
したがって,在学契約は,同法所定の「消費者契約」に当たらない。
次に,本件不返還合意は,合格者がいったん入学時納入金を納付し
た上で,自らの意思で入学資格ないしこれに附帯する権利を放棄しても,それまでに合格者の任意の判断で執られた入学手続が遡及的に覆ることはないというだけのことであり,同被告に対して入学すべき債務を負っておらず,債務不履行責任を負うものではない。
したがって,本件不返還合意は,損害賠償額予定条項に当たらない。
また,大学の事業計画が個々の学生との間の個別的な対価関係や収
支計算のみによって立てられるわけではないことは前記のとおりであるところ,被告早稲田大学は,新学期開始前から入学者数を推定し,入学時納入金を引当てとして,事業の遂行を全うするために必要とする人的及び物的設備その他の諸施設等を確保し,その充実を図り,あるいは事業計画を策定するのであって,入学試験に合格した者が入学を辞退するか否かにかかわらず,その者が納付した学費等は,予定された大学事業のために充てられるのであるから,仮に同被告が入学辞退者にこれを返還するとなれば,入学時納入金がそのまま大学にとっての損害となる。
さらに,原告S及び原告Tは,それぞれ早稲田大学理工学部及び同
政治経済学部を第1志望として受験し,合格したものであり,同被告としては,当然入学すると考え,向こう4年間にわたって学費等を納付する者として予定し,合格者数に余裕を持たせるような措置は執っていない。
そのため,入学辞退となれば,合格者のうち入学辞退者分がそのまま向こう4年間を通じて欠員となり,入学時納入金に加え,向こう4年間分の学費等に相当する損害が同被告に平均して生じる。
e消費者契約法10条の該当性
原告R,原告S及び原告Tは,入学資格を取得する対価として入学
時納入金を納入したのであり,後に自らの意思でこれを放棄したとしても,既に納入時に期待した利益を得ているのであるから,本件不返還合意が信義則に反し,同原告らの利益を一方的に害するものとはいえない。
第3当裁判所の判断
1在学契約の法的性質私立大学に係る在学契約は,学校教育法に定められた大学を設置する学校法人が,学生に対し,あらかじめ整備しておいた教育施設を利用させたり,雇用等により配備した教職員をして所定の課程の授業又は教育遂行上の事務を行わせるなどの方法により役務を提供して,教育を実施する義務を負い,その反面,学生が,自己の教育を包括的に学校に委ねてその指導を受けることを承認するとともに,授業料その他の学費を納付する義務を負うことを主たる内容とし,単に人的・物的教育施設の利用とその対価の支払に関する法律関係にとどまらず,教育という全人格的な営為を対象とするだけに,取引法の原理には馴染まない要素をも包摂している。
そして,学校設置者は,教育目的を達成するため,一般的に学生の身分ないし地位を定めるとともに,教
育内容を明らかにする学則等の諸規則を制定したり,個別・具体的な指示命令をもって学生の行動を規律することができる一方,学生が自己に対する教育を託している学校から何らの理由もないのに在学契約を解除されて一方的に両者の関係を解消されることは想定されていないのであって,このような法律関係の形成を目的とする在学契約には,前示のとおりの特質を有する学生の地位を定める側面があることは否定できず,この点は,教育の本質から当然に帰結されるところである。
また,大学は,国公立大学であると私立大学であるとを問わず,公教育を分担すべき責務を負う公的な存在であるから,その教育内容は教育基本法及び学校教育法を始めとする教育法による規制を受け,その主たる内容をあらかじめ学則等の諸規則によって明らかにしておく
ことが必要となり,私立大学の場合には,これが一種の普通契約約款として附合契約の性質を有する在学契約の内容を一般的に規定することになる。
そうすると,在学契約は,人的・物的教育施設の利用関係及び教育遂行関係並びに学生たる地位の取得関係など複合的な要素を包摂しているばかりでなく,教育法の原理及び理念による規律を受けることが当然に予定されているという意味において,取引法原理に適合しない側面を有しているので,同じく非法律行為の事務の委任を目的とする準委任契約には該当しないといわざるを得ず,かつ,その事務の本質的な特徴にかんがみれば,同契約に類似した無名契約ということはできず,教育法の原理及び理念により規律されることが予定された継続的な有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約というべきである。
2在学契約の成否
(1)被告青山学院,被告慶應義塾,被告上智学院,被告星薬科大学及び被告立正大学学園関係
原告Aと被告青山学院との間,原告Dと被告慶應義塾との間,原告E,原告F,原告G,原告H及び原告Iと被告上智学院との間,原告Jと被告星薬科大学との間,原告K,原告L,原告M,原告N,原告O,原告P及び原告Qと被告立正大学学園との間でそれぞれ在学契約が成立したことについては,当事者間に争いがない。
(2)被告関東学院関係
被告関東学院に対応する原告B及び原告Cの入学手続については前判示第2の1の(2)(別表2の各原告該当欄)のとおりであるところ,さらに,証拠(乙ロ第2号証の1及び2)及び弁論の全趣旨によれば,同被告は,平成13年度及び14年度の関東学院大学経済学部一般入学試験(前期日程)の各入学手続において,まず,入学時納入金のうち入学金に相当する金員を納付させ(以下,この手続を「第1次納付手続」という。),次いで,相当期間の経過後に残金の納付をさせる(以下,この手続を「第2次納付手続」という。)制度(以下「分納制度」という。)を任意に選択することができるものとし,第2次納付手続の期限をそれぞれ平成13年3月14日,平成14年3月13日としたこと,分納制度を選択した場合,第1次納入期限後に提
出すべき第1次入学手続書類として分割納入第1次入学手続票,第2次納入期限後に提出すべき第2次入学手続書類として分割納入第2次入学手続票,学生証用写真台紙,誓約書及び住民票記載事項証明書をそれぞれ提出し,高等学校卒業見込みの者についてのみ卒業式後に卒業証明書を提出すべきものとされていたこと,同原告らはいずれもこの分納制度により第2次納付手続を了し,かつ,第2次入学手続書類を提出したこと,以上の各事実が認められる。
これによれば,分納制度を選択した場合においても,第2次納付手続の期限までには入学時納入金の全額が納付されるほか,分割納入第1次入学手続票に加え,分割納入第2次入学手続票及び誓約書が提出されることとされており,この段階までの手続を了していれば,入学の意思が客観的に明確になり,他方,同被告においてもこれを異議をとどめることなく受領していれば,入学を拒絶することは通常あり得ないと考えられることに照らすと,前示各納付手続においては,遅くとも第2次納付手続において入学時納入金の全額が納付され,その後第2次入学手続を了した時点で在学契約が成立するというべきである。
もっとも,前掲各証拠によれば,卒業証明書を所定の期限までに提出できない場合,入学資格を取り消すことがあること,関東学院学則において入学は学年の始めとする旨規定していたことが認められるところ,卒業証明書を提出しない場合に入学資格を取り消すとの取扱いは,学校教育法56条が高等学校卒業を大学の入学資格としていることにかんがみ,在学契約の解除事由を定めたものにすぎないと解され,また,入学は学年の始めとするとの学則は,在学契約の締結により入学し得る地位を取得した後,実際に学生として教育的役務等を受ける資格を与えられる時期を定めたものとみることができるので,いずれも前示の判断を覆すものではない。
そうすると,原告B及び原告Cについては,第2次入学手続書類を提出した時点で,同原告らと同被告との間で在学契約がそれぞれ成立したと認めることができる。
(3)被告早稲田大学関係
ア原告R
証拠(乙ト第1ないし第3号証,第14号証の1,第15号証)及び弁論の全趣旨によれば,同被告は,平成14年度早稲田大学理工学部電気電子情報工学科一般入学試験の入学手続において,第1次入学手続として平成14年2月27日から同年3月5日までの間に登録料(入学金相当額)を納付し,第2次入学手続として同月13日までに誓約書・保証書,入学手続用紙(学生個人カード),学生記録(カード),預金口座振替依頼書・自動払込受付通知書その他の書類を郵送し,かつ,同月25日までに入学時納入金の残額を納付すべきものとしていたこと,同被告の制定に係る学部の入学手続時における登録料の取扱いに関する規程(以下「登録料規程」という。)において,登録料は所定の入学手続期間内に納付しなければならない入学予約
金をいうと定義した上,第2次入学手続をなし,当該学部に入学する者に限り入学金に振り替えるものと定められていること,以上の各事実が認められる。
これによれば,登録料規程は,第2次入学手続が終了するまでは在学契約が成立しないことを前提とし,それまでに納付された入学金相当額の金員をいわば前納金として取り扱い,在学契約の成立を待って入学金に充当するものとしているとみざるを得ず,第2次入学手続が行われるまでは何ら入学手続関係書類が提出されず,入学の意思が客観的に明確になったとはいいがたいことをも併せ考慮すると,少なくとも第2次入学手続のうち入学関係書類の提出が行われるまで,在学契約は成立しないと解すべきである。
そして,同原告が,入学関係書類を提出せず,第2次入学手続をしていないことは,前判示第2の1(2)(別表2の同原告該当欄)のとおりであるから,同原告と同被告との間で在学契約が成立したと認めることはできない。
もっとも,このように解することは,両者間に何らの法律関係も存しないことを意味するものではない。
前判示のとおり登録料規程は登録料をもって入学予約金としているのであって,両者間には在学契約の予約が成立しているとみることができ,前判示のような在学契約の特質,特に学校からの一方的な解除が想定されていないことにかんがみると,合格者が第2次入学手続を執った場合に学校が正当な理由もないのに在学契約の締結を拒絶することは予定されていないと考えられる。
このような意味で前示の予約は学生たる地位を取得し得る資格を付与するものということができる。
イ原告S及び原告T
証拠(乙ト第4,第5号証,第6号証の1,第7ないし第9号証,第11号証,第14号証の1,第15,第16号証)及び弁論の全趣旨によれば,同被告は,創成入試及び総合選抜入試の各入学手続において,第1次入学手続としてそれぞれ平成13年10月15日から同月31日までの間,平成14年1月7日から同月11日までの間に,入学時納入金相当額を納付し,第2次入学手続として同月13日までに誓約書・保証書,入学手続用紙(学生個人カード),学生記録(カード),預金口座振替依頼書・自動払込受付通知書その他の書類を郵送すべきものとしていたこと,以上の各事実が認められる。
これによれば,第2次入学手続が行われるまでは何ら入学手続関係書類が提出されず,また,入学時納入金が納付される時期が入学の時期である4月1日の4か月又は3か月前であるため,入学の意思が客観的に明確になったとはいいがたいことにかんがみると,第2次入学手続が行われるまで,在学契約は成立しないと解すべきである。
そして,同原告らが,第2次入学手続を執っていないことは,前判示第2の1(2)(別表2の同原告ら該当欄)のとおりであるから,同原告らと同被告との間で在学契約が成立したと認めることはできない。
もっとも,両者間に登録料の納付により在学契約の予約が成立していることは前判示アと同様であり,納付済みの金員は,予約締結時に在学契約成立時に入学時納入金に充当されるべき前納金ということになる。
3入学辞退の申入れ
(1)入学辞退の申入れの法的性質
在学契約の法的性質が準委任契約ないしこれに類似した無名契約でないことは前判示1のとおりであり,在学契約について民法651条1項を適用又は類推適用することはできない。
しかし,在学契約は,学生が学校法人に対して自己の教育を包括的に委ねて学校の指導を受けることを承認することをその重要な要素とするものであるところ,学生が自己の意思に基づき当該学校法人から教育を受けることを放棄し,在学契約の解消を求めるときは,同契約が教育という全人格的な営為を対象とするだけに,被教育者の自発的な意思がなければ,所期の目的を達成し難い上,憲法26条1項所定の教育を受ける権利の趣旨に照らし,その意思が最大限に尊重されることが要請される。
この理は,いわゆる在学生のみならず,入学手続を了して在学契約を締結し,あるいは同契約の予約を締結したものの,いまだ実際に学生たる地位を取得する以前の段階にある者(以下「入学予定者」という。)にも妥当することはいうまでもない。
したがって,学校法人が入学辞退の申入れをした入学予定者をその意思を無視して学生として取り扱ったり,在学契約が存続するような手続を執ることは,許されないものといわなければならない。
そして,入学辞退の申入れは自由であって,その法的性質は任意解除権の行使として行う解除(解約告知)と解すべきであり,入学予定者がこれを任意に行うことによって直ちにその法律効果が生じ,在学契約は将来に向かって解消されるものと解すべきである。
(2)入学辞退の申入れの有無
ア原告B及び原告Cが被告関東学院に対し,原告Dが被告慶應義塾に対し,原告E,原告G及び原告Iが被告上智学院に対し,原告K,原告L,原告M,原告N,原告O及び原告Qが被告立正大学学園に対し,それぞれ入学辞退の申入れを行ったことは,前判示第2の1(2)(別表2の各原告ら該当欄)のとおりである。
そうすると,原告B及び原告Cと被告関東学院との間,原告Dと被告慶應義塾との間,原告E,原告G及び原告Iと被告上智学院との間,原告K,原告L,原告M,原告N,原告O及び原告Qと被告立正大学学園との間でそれぞれ在学契約が解除により将来に向かって解消したというべきである。
イ続いて,その余の原告らのうち在学契約を締結した者について検討する。(ア)原告A関係
証拠(甲Ba第2号証,乙イ第10号証)及び弁論の全趣旨によれ
ば,同原告は,平成14年4月,横浜市立大学に入学し,以後同大学に通学していること,他方,青山学院大学における同年度の入学式を欠席し,学生証を受領せず,履修登録もしていないこと,被告青山学院は,同年4月当時,同原告が学生証を受領せず,履修登録もしていないことを認識し,また,学生証の交付は入学式に出席した者に対して行われることから,同原告が入学式に欠席したことも認識していたこと,以上の各事実が認められるが,同被告において,同原告が他大学に入学したことを認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
ところで,入学辞退の申入れは,前判示(1)のとおり当該入学予定者が学校法人との間の在学契約を解除する旨の意思表示と解されるが,その者が当該大学において教育を受ける権利を喪失するという重大な結果を伴い,他方,大学にとっても学生として入学する者を確実に把握する必要があることに照らすと,入学辞退の申入れの有無の判断は明確な指標に基づき客観的に行われなければならないのであって,内心的な意思を重視し安易に間接事実により黙示的な意思表示を推認するのは相当でない。
そして,いったん入学手続を了した者が,入学の意思を持ちながら,病気その他の理由により大学に赴くことができず,連絡することもできない事態が生じた場合等を考慮すると,原告らが主張するように単に入学式を欠席し,学生証を受領せず,履修登録をしなかったというだけでは,入学辞退の意思が客観的に明確になったとすることはできないといわなければならない。
そうすると,同原告が同被告に対して入学式の欠席,学生証の未受領及び履修未登録によって入学辞退の申入れをしたと認めることはできない。
(イ)原告F関係
証拠(Bf第2号証,乙ニ第3号証の1の1,第11号証の2)及び弁論の全趣旨によれば,同原告は,平成14年4月,東北大学に入学し,以後同大学に通学していること,他方,上智大学における同年度入学式を欠席し,学生証を受領せず,履修登録もしていないこと,被告上智学院は,同年4月当時,同原告が学生証を受領せず,履修登録もしていないことを認識し,また,学生証の交付は入学式に出席した者に対して行われることから,同原告が入学式に欠席したことも認識していたこと,以上の各事実が認められるが,同被告において同原告が他大学に入学したことを認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
そして,単に入学式を欠席し,学生証を受領せず,履修登録をしなかったというだけでは,入学辞退の意思が客観的に明確になったとすることができないことは,前判示(ア)のとおりである。
そうすると,同原告が同被告に対して入学式の欠席,学生証の未受領及び履修未登録によって入学辞退の申入れをしたと認めることはできない。
(ウ)原告H関係
同原告の母であるUは,その陳述書(甲Bh第2号証)において,平成13年3月23日ころ,被告上智学院に対し,同原告が国立大学に入学したので,入学時納入金の返還を求める内容の電話を掛けた旨供述するが,前判示(ア)のとおり入学辞退の申入れの有無の判断は明確な指標に基づき客観的に行わなければならないところ,前記供述を裏付ける証拠は存在しない上,電話による発言の内容は入学時納入金の返還の有無を問い合わせたものにすぎないと解する余地もあり,同原告の入学辞退の意思が客観的に明確になったとすることはできない。
そうすると,同原告が同被告に対して入学辞退の申入れをしたと認めることはできない。
(エ)原告J関係
証拠(甲Bi第1号証,乙ホ第8号証)及び弁論の全趣旨によれば,同原告及びその母親であるVは,平成14年3月23日,入学辞退書を持参して被告星薬科大学に赴き,入学時納入金の返還を求めたが,同被告がこれを拒んだため,入学辞退書を持ち帰ったことが認められる。
そして,入学辞退の申入れの有無の判断は,前判示(ア)のとおり明確な指標に基づき客観的に行わなければならないところ,前判示の事実関係によれば,同原告らは,入学時納入金の返還を条件として入学辞退の申入れをする意思であったが,これを拒まれたために入学辞退の申入れをしないままに辞去したとみる余地も十分にあり,入学辞退の意思が客観的に明確になったとすることはできない。
そうすると,同原告が同被告に対して入学辞退の申入れをしたと認めることはできない。
(オ)原告P関係
証拠(甲Bf第2号証,甲Bt第1号証)及び弁論の全趣旨によれ
ば,同原告は,平成14年4月,法政大学に入学し,以後同大学に通学していること,立正大学の同年度入学式に欠席し,学生証を受領せず,履修登録もしていないこと,被告立正大学学園は,同年4月当時,同原告が学生証を受領せず,履修登録もしていないことを認識していたこと,以上の各事実が認められるが,同被告が,同原告が他大学に入学し,かつ,立正大学の入学式を欠席したことを認識していたことを認めるに足りる証拠はない。
そして,単に学生証を受領せず,履修登録をしなかったというだけでは,入学辞退の意思が客観的に明確になったとすることはできないことは,前判示(ア)のとおりである。
そうすると,同原告が同被告に対して学生証の未受領及び履修未登録によって入学辞退の申入れをしたと認めることはできない。
ウさらに,原告R,原告S及び原告Tについては,前判示2の(3)のとおり,同原告らと被告早稲田大学との間においては,在学契約自体は成立していないものの,その予約が成立しており,この予約に基づき将来在学契約成立の際に入学時納入金に充当すべきものとして登録料等が納付されたところ,その後,同原告らにおいて第2次入学手続を執らなかったことにより在学契約の締結にまで至らなかったのであるから,実質的には前示の各金員の授受の原因となった法律関係が同原告らの意思に基づき解消されたことになる。
そして,このことは同被告にとっても直ちに認識し得ることであり,入学辞退の意思が客観的にも明確になったとみることができる。
このような法律関係は,入学時納入金の授受の原因となった在学契約を解除するのと実質的には同一のものと考えられるから,予約に基づく在学契約の締結が拒絶された場合に,同被告において前納金を取得する法律上の原因があるといえるかについて後に判断することとする。
また,原告A,原告H及び原告Pに係る退学届(別表2の各該当原告欄記載)は,いずれも学生としての地位を取得した後に提出されたものであり,在学契約の解除の意思表示ではあるものの,これを入学辞退届と同一視することはできないので,後にその法的効果について判断する。
エ以上に検討したところによると,原告F及び原告Jは,入学辞退の申入れをしたと認めることができず,かつ,他に退学の申入れをしたことにつき何ら主張・立証がないから,同原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことに帰する。
4入学時納入金の返還の要否に関する法律上の原因
(1)入学時納入金の性質
入学時納入金のうち入学金以外の金員は,その名目及び金額の内訳が別表2の該当欄記載のとおりとされており,これらはいずれも入学年度の4月1日以降に大学が提供する人的・物的教育施設の利用及び教育的役務の享受と対価関係に立ち(前期授業料又は初年度授業料の半分,施設費又は施設設備費,実習演習料,実験実習費,教育充実費等),あるいは立替払的な性格を有すること(保険料,同窓会費,自治会費,健康保険互助組合費等)が明確であり,これらが他の用途に使用されるべきものであることを窺わせる証拠はない。
これに対し,入学金は,入学手続時に1度だけ納付すべきものであるところ,その名目及び金額からは必ずしも性格が明らかとはいい難いけれども,少なくとも合格発表時から入学年度の4月1日をもって実際に学生の地位を付与して前示の給付を行うに先立ち,入学予定者を確定して,これらの者と各種の書類を取り交わすなどの事務手続,あるいは入学者の受入準備作業が必要とされることは弁論の全趣旨から明らかであり,これに費用を要することはいうまでもなく,入学金のうち相当部分はこれに充てられるとみて差し支えない。
ところで,証拠(乙イ第3号証,乙ロ第3号証の1及び2,乙ハ第1号証,第4号証,乙ニ第27号証,第29号証,乙ヘ第1号証,乙ト第13号証)及び弁論の全趣旨によれば,学校教育法施行規則72条1項,44条は学年は4月1日に始まり翌年3月31日に終わるものと定めていること,青山学院大学学則,関東学院大学学則,慶應義塾大学学部学則,上智大学学則,立正大学学則及び早稲田大学学則はこれと同様の規定を置いていること,関東学院大学学則,慶應義塾大学学部学則,立正大学学則及び早稲田大学学則は入学の時期は学年の始めとする旨定めていることが認められ,社会通念上は一般に4月1日の到来をもって新たな学年が始まるとともに入学予定者が学生としての資格を取得すると考えられていることをも併せかんがみると,
入学予定者は4月1日の到来を待って学生としての資格を得て実際に教育役務等の提供を受けることになるけれども,在学契約の成立によって同契約の当事者としての地位を取得しているから,いったん入学手続を了してしまえば,入学年度の4月1日をもって当然に学生としての資格を取得する地位を付与されることになるのであり,この段階まで至れば,もはや大学の側から合理的な理由もないのに一方的に在学契約を解除されることがないことは前判示のとおりであるから,法律上も強固な契約上の地位を取得したということができる。
そして,この在学契約上の地位を取得しておけば,さらに志望順位の高い大学への入学を望んだものの,その入学試験に不合格となった場合において,いわゆる浪人生活を回避することができることから,受験生にとっては志望順位の高い大学の入学試験に心おきなく挑戦することができるという利点,いわば浪人生活回避の利益もあり,実際に多くの受験生がこれを積極的に活用している状況にある。
以上のような在学契約における入学予定者の法律上の地位及び実際上の効果に照らすと,入学金は,前示の入学手続上の諸費用に充てられるほか,在学契約上の地位の取得についての対価とみることができ,このように解することが契約当事者の合理的意思に合致すると考えられる。
(2)被告青山学院関係
ア原告Aの請求のうち入学金28万円に係る部分は,在学契約の成立により入学手続上の諸利益を享受し,かつ,同契約上の地位を取得したことから,同被告においてその対価として取得することにつき法律上の原因があるので,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
イ同原告の請求のうちその余の84万3900円に係る部分について検討するに,証拠(乙イ第3号証,第8号証)及び弁論の全趣旨によれば,同被告の学則によれば,退学をするには教授会の許可を必要とするところ,青山学院大学の教授会は平成14年5月22日付けで同原告の退学を承認したことが認められ,これに加え,前判示第2の1の(2)並びに第3の3の(2)イ(ア)及び4の(1)の各事実によれば,同原告は,同年4月1日の到来により学生としての資格を取得し,かつ,教育的施設を利用し,役務の提供を受けていたところ,同年5月22日をもって在学契約が解除により将来に向かって解消されたと認めることができる。
そこで,前記請求に係る金員のうち同日以前の分は,同被告において既に履行済みであるから,その対価として取得することにつき法律上の原因があるので,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
ウさらに,前記請求に係る金員のうち同月23日以降の分については,前判示第2の1の(3)のとおり,同被告の学則には退学者不返還規定が存するところ,附合契約の性格を有する在学契約の性質にかんがみれば,同規定は一種の普通契約約款として同契約の内容になっているということができるから,同規定に基づく退学者の納入金不返還の合意(以下「退学者不返還合意」という。)の有効性について後に判断する。
(3)被告関東学院関係
ア原告B及び原告Cの請求のうち入学金28万円に係る部分は,前判示(2)のアと同様の理由により同被告においてこれを取得するにつき法律上の原因があるから,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
イ同原告らの請求のうちその余の49万8800円に係る部分については,前判示第2の1の(2)及び(3)のイの各事実によれば,同原告らと同被告との間においては本件不返還合意が在学契約の内容になっていると認めることができるので,同合意の有効性について後に判断する。
(4)被告慶應義塾関係
ア原告Dの請求のうち入学金34万円に係る部分は,前判示(2)のアと同様の理由により同被告においてこれを取得するにつき法律上の原因があるから,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
イ同原告の請求のうちその余の121万円に係る部分については,前判示第2の1の(2)及び(3)のウの各事実によれば,同原告と同被告との間においては,本件不返還合意が在学契約の内容になっていると認めることができるので,同合意の有効性について後に判断する。
(5)被告上智学院関係
ア原告E,原告G及び原告I
(ア)同原告らの請求のうち入学金27万円に係る部分は,前判示(2)のアと同様の理由により同被告においてこれを取得するにつき法律上の原因があるから,その余の点につき判断するまでもなく,理由がない。
(イ)同原告らの請求のうちその余の52万8600円(原告E),52万3100円(原告G),51万2700円(原告I)に係る部分については,前判示第2の1の(2)及び(3)のエの各事実によれば,同原告らと同被告との間においては本件不返還合意が在学契約の内容になっていると認めることができるので,同合意の有効性について後に判断する。
イ原告H
(ア)同原告の請求のうち入学金27万円に係る部分は,前判示ア(ア)と同様の理由により同被告においてこれを取得するにつき法律上の原因があるから,その余の点につき判断するまでもなく,理由がない。
(イ)同原告の請求のうちその余の52万3100円に係る部分について検討するに,前判示第2の1の(2)並びに第3の3の(2)イ(ウ)及び4の(1)の各事実によれば,同原告は,同年4月1日の到来により学生たる地位を取得し,かつ,教育的施設を利用し,役務の提供を受けていたところ,同年4月19日ころ,在学契約が解除により将来に向かって解消されたと認めることができる。
そこで,前記請求に係る金員のうち同日の以前分は,同被告において既に履行済みであるから,その対価として取得するにつき法律上の原因があるので,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(ウ)さらに,前記請求に係る金員のうち同月20日ころ以降の分については,前判示第2の1の(3)エのとおり,上智大学学則には退学者不返還規定が存するところ,前判示(2)のウと同様の理由により同規定が在学契約の内容になっているということができるから,これによる退学者不返還合意の有効性について後に判断する。
(6)被告立正大学学園関係
ア原告K,原告L,原告M,原告N,原告O及び原告Q
(ア)同原告らの請求のうち入学金27万5000円に係る部分は,前判示(2)アと同様の理由により同被告においてこれを取得するにつき法律上の原因があるから,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(イ)同原告らの請求のうちその余の58万3000円(原告K),52万5000円(原告L),63万円(原告M),73万5000円(原告N),73万5000円(原告O),59万円(原告Q)に係る部分については,前判示第2の1の(2)及び(3)カの各事実によれば,同原告らと同被告との間においては本件不返還合意が在学契約の内容になっていると認めることができるので,同合意の有効性について後に判断する。
イ原告P
(ア)同原告の請求のうち入学金27万5000円に係る部分は,前判示ア(ア)と同様の理由により同被告においてこれを取得するにつき法律上の原因があるから,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(イ)同原告の請求のうちその余の51万7000円に係る部分について検討するに,証拠(乙ヘ第1号証,第13号証)及び弁論の全趣旨によれば,立正大学学則においては,退学に関しては学部教授会の議を経て学長がこれを定めるものとされているところ,平成14年4月17日ころ,立正大学文学部教授会において同原告の退学が承認されたことが認められ,これに加え,前判示第2の1の(2)並びに第3の3の(2)カ及び4の(1)の各事実によれば,同原告は,平成14年4月1日の到来により学生としての資格を取得し,かつ,教育施設を利用し,役務の提供を受けていたところ,同月17日ころ,在学契約が将来に向かって解消されたと認めることができる。
そこで,前記請求に係る金員のうち同日ころ以前の分は,同被告において既に履行済みであるから,その対価を取得することにつき法律上の原因があるので,その余の点につき判断するまでもなく,理由がない。
(ウ)さらに,前記請求に係る金員のうち同月18日ころ以降の分については,前判示第2の1の(3)カのとおり立正大学学則には退学者不返還規定が存するところ,前判示(2)ウと同様の理由により同規定が在学契約の内容になっていると認めることができるから,これによる退学者不返還合意の有効性について後に判断する。
(7)被告早稲田大学関係
ア原告R
同原告の請求のうち登録料29万円については,前判示2の(3)ア及び3の(2)ウのとおり同金員の納付によって在学契約の予約が成立したものの,本契約の締結に至っていないのであるが,その実質は他の大学における入学辞退者と同一であるとみることができるのであって,本契約が成立した場合に入学金に充当されるべき登録料が納付されるとともに,同原告においては入学手続上の諸利益を享受し,かつ,本契約が成立した時点で同契約上の地位を取得し得る資格を付与されているのであり,その反面,被告早稲田大学においては在学契約の予約に基づく給付を履行済みであるから,その対価を取得することにつき法律上の原因があるので,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
イ原告S及び原告T
(ア)同原告らの請求のうち登録料29万円に係る部分は,前判示アと同様の理由により被告早稲田大学においてこれを取得すべき法律上の原因があるから,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
(イ)同原告らの請求のうちその余の68万4250円(原告S),43万6100円(原告T)に係る部分については,前判示第2の1の(2)及び(3)のキの事実及び弁論の全趣旨によれば,同原告らと同被告との間では,本件不返還合意が在学契約の予約の内容になっていると認められるので,同合意の有効性について後に判断する。
ウ以上によると,原告Rの請求は,理由がないことに帰する。
5本件不返還合意の有効性
(1)民法651条2項ただし書の適用又は類推適用の可否
入学予定者が入学辞退の申入れをしたことにより在学契約又はその予約を締結した学校法人に損害が生じた場合に民法651条2項が適用されるか否かは,同契約の性質をどのように解するかにかかっているが,前判示1のとおり準委任又はこれと類似の無名契約とみることはできないから,その適用を肯定することはできない。
もっとも,契約当事者間の人的信頼関係が基礎となっている継続的な契約関係であることから,一定の範囲内で委任に関する諸規定を類推適用することが考えられないではないが,同法651条所定の任意解除権は,契約当事者双方から何らの理由がなくとも任意に行使することを許容するものであり,大学側からの一方的な解除が許されない在学契約の本質と相反するものである上,同条2項は,解除が自由に行われることとこれにより生じる損害の填補との調和を図るために設けられた規定であるところ,在学契約においても学生側からの解除が自由に行われることから,これにより大学側に損害が生じる場合があることは容易に予想できることであり,同契約の当事者間において,学生側が任意解除権を行使したときは,大学側に対し,その結果生
じた損害を填補するために一定額を負担する旨合意することは,公序良俗に反するなどの特別な事情がある場合を除きこれを禁止すべき理由はない。
そして,原告らの主張するように学生側の利益のみを偏重することはできないから,同条2項ただし書を強行法規と解することは困難であり,原告らの主張はその前提を欠くから,これを採用することはできない。
(2)民法90条所定の公序良俗違反の成否
ア民法90条の適用に関する原告らの主張は,社会的に不相当な行為をも無効とすべきものであるとするものであるが,民法は公の秩序に抵触するなど反社会性の強い行為とその程度に達していないため,私的自治に委ねべきる行為とを区別し,前者についてのみ法的効果を認めないものとしているのであるから,ただ単に相当性を欠くというだけで無効とすることはできないというべきである。
また,当不当の判断は相対的であって,法的安定性を害するおそれがあることは否定できない。
殊に,本件で問題とされる教育をめぐる法律関係については,学校法人が教育活動の一環として行う通常許される範囲内の事業活動と公序良俗に反し無効とされる事業活動とを区別するための基準としてはあいまいに過ぎ,これを採用することはできない。
そこで,本件不返還合意又は退学者不返還合意は,学校法人との間でこれを内容とする在学契約又はその予約を締結した者の窮迫・軽率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認められる場合に限り,民法90条所定の公序良俗に反するものとして無効となると解すべきである。
イ被告青山学院関係
(ア)前判示4の(2)のウの事実によれば,普通契約約款として在学契約の内容となっている退学者不返還合意は,同被告が一方的に定めた学則に基づくものであり,原告Aがこれに対する諾否を選択する余地はなく,契約内容はすべて同被告が定めていたという意味で,同被告は同原告に対して優越的な立場にあったということができる。
(イ)同原告は,授業料等につき別表2の該当欄記載の金員を納付しながら,退学の翌日である平成14年5月23日から当該学期の終了日である同年9月30日まで何らの給付も得ていないことは先に判示したことから明らかである。
しかしながら,同被告は,すべての学生に対し,4月1日の到来をもって学生としての資格を付与し,これに基づいて教育的施設を利用させ,教職員により教育的役務を提供すべき義務を負っているところ,大学における教育は,集団的かつ統一的に行われる特質があり,そのために必要な人的・物的教育施設もまた一体的に用意されなければならないのであり,これらの教育事業を円滑に実施するためには,予算を組んだ上で,学生からの納入金等の諸収入について予測を立て,これらを引当てとして,必要な人的・物的教育施設をあらかじめ用意し整えておくとともに,これに必要な費用の支出についても事前に予測して,健全な収支を維持する必要がある。
ところで,学生のうち一部の者が学期の途中で退学したとしても,少なくとも当該学期中は,あらかじめ準備し整えておいた人的・物的教育施設を縮小したり,予算上の支出計画を変更することはおおむね困難であり,同被告が支出すべき費用もさほど減少するものではないから,退学者に対し一々未履修期間に応じて納入金を返還していたのでは,同被告は,返還金と支出を免れなかった費用との差額に相当する損害を被ることになる。
そして,証拠(乙イ第11号証)及び弁論の全趣旨によれば,青山学院大学における編入学は1年に1度しか行われないことが認められるので,退学によって生じた収容定員の欠員を編入学により直ちに補充し,退学者に係る納入金収入の減少を補填することも困難である。
そうすると,同被告が,当該退学者の未履修期間に対応する納入金をそのまま取得することとし,これをもって前記損害の補填に充当することは,あながち不合理なことではなく,少なくとも反社会性が強度であるということはできない。
(ウ)以上によれば,同被告に係る退学者不返還規定合意は,同原告の窮迫・軽率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認めることはできない。
ウ被告関東学院関係
(ア)前判示第2の1の(2)(別表2の該当原告欄)及び第3の2の(2)の各事実並びに弁論の全趣旨によれば,原告B及び原告Cが同被告との間で在学契約を締結した際,他にも入学を希望する大学があったものの,その大学に不合格となった場合のことを慮り,次年度に再度入学試験を受けるまでの浪人生活に伴う経済的心理的負担を回避するために関東学院大学経済学部に入学する手続を執り,2回に分けて入学時納入金を納付したものの,より志望順位の高い大学にも合格したため,その大学に入学手続を執って通学していること,同被告は,同原告らを含む受験生のうち相当数の者が浪人生活を回避するために入学手続を執って入学時納入金を納付することを認識していたこと,同被告は,学生募集要項及び入学手続要項に入学時納入金の金額,内
訳及び納付期限を記載し,これを受験者又は合格者に交付していたこと,同原告らは,これらの書類の記載内容を認識していたこと,在学契約は,附合契約の一種であって,同被告においてその内容を一方的に定めることができること,以上の各事実が認められる。
これによれば,同被告において,同原告らを含む数多くの受験生がいわゆる浪人生活を回避するために多少の不利があってもこれを甘受して在学契約を締結するであろうことを予測でき,この意味で自己に有利な契約内容を定めようと思えばできる優位な立場にあったということができるものの,他方,同原告らにおいても,入学時納入金の金額,内訳及び納付期限に関する情報をあらかじめ与えられ,いわゆる浪人生活回避の利益と経済的出捐の利害得失を判断し,自己の判断に基づきそれぞれ在学契約を締結したということができる。
(イ)証拠(乙ロ第4号証)及び弁論の全趣旨によれば,大学は,学則に収容定員数を定めるものとされていること(学校教育法施行規則4条5号参照),この定員数に基づき各年度の予算を組むなどして財政計画を立てていること,納入金は,大学にとって重要な収入であり,国庫からの財政的援助(日本私立学校振興・共済事業団を通じて行う間接補助を含む。
以下,これら財政的援助による交付金を「補助金」という。)とともに経常経費等に用いられていること,在学している学生の数が学則に定めた収容定員数に満たないとき(いわゆる定員割れ)は補助金の減額事由とされていること(私立学校振興助成法5条3号参照),大学は,収容定員数に応じ,大学設置基準所定の人的・物的教育施設を整える義務を負うこと(学校教育法3条,学校
教育法施行規則66条参照),以上の各事実が認められる。
これによれば,同被告は,定員割れにより納入金及び補助金収入が減少する可能性がある一方で,定員超過を生じたからといって人的・物的教育施設をそれに応じて削減することは困難であり,収容定員数に見合う学生を確保することは財政運営上極めて重要であると考えられるところ,定員割れという事態が生じないようにするため,既に入学手続をした者による入学辞退を防ぐ必要があり,在学契約の拘束力を強める手段として本件不返還合意をすることは,前示の目的を達成する上で,やむを得ない面がある。
なお,同原告らは,同被告が実際の入学者数の予測を大きく見誤ることはないと主張するところ,同被告において著しい定員割れにより財政的に破綻するおそれが生じたことを窺わせる事情は見当たらないものの,他方,実際に入学する員数の予測が容易であることを認めるに足りる証拠は存せず,また,入学時納入金を納付させていない大学においても格別の不都合は生じていないとの主張についてもこれを認めるに足りる証拠はない。
(ウ)証拠(乙ロ第4号証)及び弁論の全趣旨によれば,大学においては,4月1日から学年が始まることから,3月中旬ころまでに入学者数を確定しない限りこれに見合った受入準備をすることはできないこと,平成13年3月14日及び平成14年3月13日には,ほとんどの私立大学の合格発表が終了していたこと,以上の各事実が認められる。
これに加え,前判示2の(2)の事実によれば,受験生は,第2次納付手続よりも早く希望する大学の合格者発表が行われる限り,分納制度を利用することによって入学金に相当する金員を納付するだけでいわゆる浪人生活を回避する利益を得ることができるところ,同被告は,入学者の受入準備との関係から可能な限り第2次納付手続の期限を遅く設定し,しかも,その時までにほとんどの私立大学の入学試験が終了していることから,多くの受験生が分納制度を利用する機会を与えられていたものと認められ,この意味で受験生の経済的出捐の軽減に配慮していたということができる。
なお,同原告らの主張のうち入学手続の期限を遅くすることにより入学者数を的確に把握できるとする点は,入学者の受入れに伴う事務処理の負担とその困難さを軽視するもので,採用できない。
(エ)以上によれば,同被告に係る本件不返還合意は,同原告らにほとんど利益をもたらすものでなく,一方的に同被告側の事情によって定められたものであって,その妥当性には疑問があるものの,定員管理上の問題により財政運営に支障を生じること,受験生の経済的負担の軽減を図る措置が講じられていることに照らすと,いまだ同原告らの窮迫・軽率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認めることはできない。
なお,同原告らは,文部省昭和50年通知を援用して,本件不返還合意の不当性を指摘するところ,同通知は,所轄行政庁の行政上の指導方針を示すものとして尊重に値するが,それ自体には法的拘束力がない上,その発出以降においても授業料等の不返還が長期にわたり,かつ,広く行われてきたのに,所轄行政庁においても,文部科学省平成14年通知により,文部省昭和50年通知を参照した上で,少なくとも入学料以外の学生納付金を合格発表後の短期間内に納入させるような取扱いは避けるなどの配慮を求めるだけで,抜本的な規制をした形跡がないことに照らすと,望ましい運用を示した以上の意味を汲み取ることは困難であり,前示の判断を覆すものではない。
エ被告慶應義塾関係
(ア)前判示第2の1の(2)(別表2の該当原告欄)の事実及び証拠(乙ハ第1,第2号証)並びに弁論の全趣旨によれば,原告Dは,同被告と在学契約を締結した際,他にも入学を希望する大学があったものの,その大学に不合格となった場合の浪人生活を回避するため,慶應義塾大学理工学部に入学する手続を執り,2回に分けて入学時納入金を納付したものの,より志望順位の高い大学に合格したことから,その大学に入学手続を執って通学していること,同被告においても,このような目的で入学時納入金を納付する者が相当数存在することを認識していたこと,同被告は,入学試験要項及び入学手続要項に入学時納入金の金額,内訳及び納付期限を記載し,これを受験者又は合格者に交付していたこと,同原告も,これらの書類の記載内容を認識
していたこと,同被告は,附合契約の性質を有する在学契約の内容を一方的に定めることができること,以上の各事実が認められる。
もっとも,上記の諸点に照らせば,同原告は,同被告に対し,必ずしも対等な立場にあったわけではないが,自ら利害得失を判断の上,在学契約を締結したということができることは,前判示ウの(ア)と変わるところはない。
(イ)証拠(乙ハ第1,第2号証,第5号証,第8号証の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,同被告は,平成9年度理工学部入学試験の入学手続(平成9年3月15日までに補欠合格をした者の入学手続)において,分納制度を任意に選択できるものとし,平成9年3月24日を第2次納付手続期限としたこと,同年度の国立大学の入学試験(後期日程)の合格者発表日は同月23日であることが認められ,分納制度を採用していたことに加え,第2次納付手続の期限が遅い時期に設定されていることにより受験生の経済的出捐が軽減されているばかりでなく,同期限が国立大学の一般入学試験(後期日程)の合格者発表が終了した時期に設定していることから,受験生の経済的負担にも配慮しているということができる。
(ウ)証拠(乙ハ第5号証,第10号証)及び弁論の全趣旨によれば,私立大学における財政基盤の中心は学生からの納入金であること,同被告は,前判示(イ)の第2次納付手続期限をもって入学手続を了した者を入学者として確定し,これを前提として補欠合格により欠員を補充し,その後に入学者の受入準備を行ったこと,以上の事実が認められる。
そして,前判示のところから明らかなように,入学定員に見合う入学者を確保することは財政基盤の中心である納入金収入を確保し,健全な財政を維持する上で重要であるところ,定員割れという事態が生じないようにするため,実際に教育的役務の提供が開始される平成9年4月1日の直前である同年3月24日の時点で入学手続をしていた者の入学辞退を防ぐ必要があり,本件不返還合意により在学契約の拘束力を強めることは,前示の目的を達成する上でやむを得ない手段であるということができる。
また,同被告は,補欠合格による欠員補充を終えた後に,入学者の受入準備を行うのであるから,同年3月24日の時点で入学手続を終えた者を入学者として確定することは,入学者の円滑な受入準備をするに当たって必要なことでもある。
(エ)以上によれば,同被告に係る本件不返還合意は,同原告にほとんど利益をもたらすものでなく,一方的に同被告側の事情によって定められたものであって,その妥当性には疑問があるが,定員管理上の問題により財政運営に支障を生じること,受験生の経済的負担の軽減を図る措置が講じられていることに照らすと,いまだ同原告の窮迫・軽率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認めることはできない。
同原告の主張が前示の判断を覆すものではないことは前判示ウ(オ)と同様である。
オ被告上智学院関係
(ア)原告E及び原告I関係
a前判示の第2の1の(2)(別表2の該当原告欄)の事実及び証拠(甲Be第2号証,甲Bs第2号証,乙ニ第7号証の2,第10号証の2,第11号証の2,第14号証)並びに弁論の全趣旨によれば,同原告らは,同被告と在学契約を締結した際,他にも入学を希望する大学があったものの,その大学に不合格になった場合の浪人生活を回避するため,上智大学外国語学部(原告E)又は同大学法学部(原告I)に入学する手続を執り,2回に分けて入学時納入金を納付したものの,より志望順位の高い大学に合格したことから,その大学に入学手続を執って通学していること,同被告においても,このような目的で入学時納入金を納付する者が相当数存在することを認識していたこと,同被告は,入学試験要項及び入学手続要項に入学時納入金の
金額,内訳及び納付期限を記載し,これを受験者又は合格者に交付していたこと,同原告らもこれらの書類の記載内容を認識していたこと,同被告は,附合契約の性質を有する在学契約の内容を一方的に定めることができること,以上の各事実が認められる。
もっとも上記の諸点に照らせば,同原告らは,同被告に対し,必ず
しも対等な立場にあったわけではないが,自ら利害得失を判断の上,在学契約を締結したということができることは,前判示ウ(ア)と変わるところはない。
b証拠(乙ニ第7号証の2,第10号証の2,第11号証の2,第14号証,第17号証,第19号証,第63号証)及び弁論の全趣旨によれば,同被告は,平成14年度外国語学部ロシア語学科一般入学試験及び平成9年度法学部地球環境法学科一般入学試験の各入学手続において,分納制度を任意に選択できるものとし,第2次納付手続期限をそれぞれ平成14年3月22日及び平成9年3月22日としたことが認められ,分納制度の採用とともに,第2次納付手続の期限を比較的遅い時期に設定していることは,受験生の経済的負担に配慮しているとみることができる。
c証拠(乙ニ第20号証,第35号証,第44号証,第63,第64号証)及び弁論の全趣旨によれば,大学は,定員割れを生じた場合に人的・物的教育施設を縮小することは事実上困難である一方,学生数が収容定員を超過したときは,大学設置基準等に基づき人的・物的教育施設の拡張を要求される場合があること(学校教育法3条,同法施行規則66条),定員割れ及び定員超過はいずれも補助金の減額又は不交付事由とされる場合があること(私立学校助成振興法5条2号及び3号,6条),被告上智学院に交付された平成13年度の経常費補助金の合計額は28億5994万円であること,上智大学の平成13年度の帰属収入のうち補助金の占める割合は約17.5%であること,同被告は,一般入学手続の合格発表日から第2次納付手続
期限までの間,入学者数を予測しながら,補充合格による欠員補充を行うとともに,入学者の受入準備を行うこと,上智大学外国語学部ロシア語学科における一般入学試験の平成5年度から平成14年度までの歩留り率(正規合格者のうち入学手続を完了した者の割合)は,それぞれ64%,64%,68%,47%,45%,59%,61%,30%,48%,48%と推移していること,同大学の比較文化学部以外の28学科のうち平成13年度と平成14年度と間の歩留り率の変動が5%以内にとどまったのは8学科であり,10%以上変動したのは12学科であること,以上の各事実が認められる。
これによれば,同被告は,定員割れによって既に整備した人的・物
的教育施設に余剰が生じることがある一方で,定員超過によって人的・物的教育施設の拡張を余儀なくされる場合があり,また,定員割れ及び定員超過のいずれによっても重要な財源である補助金の減額又は不交付という事態が生じかねないのであって,入学者数をできる限り正確に予測し,入学定員数に見合った入学者数を確保することは健全な財政を維持する上で必要なことである。
また,入学者の受入準備を円滑に行い,各年度の4月1日から教育的役務の提供を開始できるようにするためにも,入学者数を的確に予測することは重要である。
そして,同被告は,一般入学試験の合格発表日から第2次納付手続
期限までの間,入学者数を予測しながら,欠員の補充や受入準備を進めることになるが,歩留り率の変動の大きさにかんがみると,これを正確に予測することは困難であるといわざるを得ない。
しかも,本件不返還合意がない場合には,浪人生活を回避しようとする受験生の多くが入学手続を執り,かつ,志望順位の高い大学に合格した時点で入学辞退をすることが予想され,その結果,入学辞退者数がより大きく変動することが容易に予想されるから,本件不返還合意により在学契約の拘束力を強めることは,入学者数を適切に予測する上で有益であると考えられる。
d以上によれば,被告上智学院に係る本件不返還合意は,同原告らにほとんど利益をもたらすものではなく,一方的に同被告側の事情によって定められたものであって,その妥当性に疑問があるが,定員割れ又は定員超過のいずれであっても財政運営に支障を生じること,受験生の経済的負担に一定限度の軽減が図られていることに照らすと,いまだ同原告らの窮迫・軽率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認めることはできない。
同原告らの主張が前示の判断を覆すものでないことは,前判示ウ
(オ)と同様である。
(イ)原告G
a証拠(乙ニ第8号証の2,第12号証の2,第13号証の2)及び弁論の全趣旨によれば,被告上智学院は,平成13年度公募制推薦入学試験(以下「推薦入試」という。)の入学手続において入学時納入金を平成12年12月14日までに一括して納付すべきものとし,入学試験要項及び入学手続要項にその旨記載し,これを入学試験要項を入学手続に先立って同原告に交付していたこと,同原告は,これら書類の記載内容を認識していたこと,同被告は,附合契約の性質を有する在学契約の内容を一方的に決定すること,推薦入試においては,高等学校1校につき1名の推薦枠が設けられており,試験日及び合格日が一般入学試験よりも2か月以上早く設定されていた上,上智大学を第1志望とすることが出願資格とされていたこと,以上の各
事実が認められる。
上記の諸点に照らせば,同被告は,同原告に対し優越的な立場にあ
るといえるものの,同原告は,早期に進学先を確定することができるという利益を得ており,これと入学を辞退をする場合には入学時納入金の全額が返還されないこととの利害得失を自ら判断して在学契約の締結に踏み切ったということができる。
b前判示aの事実によれば,同原告は,推薦入試により入学時納入金を一括して支払うことにより不利益を被るものの,他方では,早期に進学先を確定して他の受験生よりも早く受験に伴う精神的負担から免れることができたものであり,その得た利益は決して小さいものではない。
これらの諸点を考慮すると,本件不返還合意が,同原告の窮迫・軽
率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認めることはできない。
(ウ)原告H
a前判示第2の1の(3)エ及び第3の4の(5)イ(ウ)の事実によれば,退学者不返還合意は,同被告が一方的に定めた学則に基づくものであり,同原告にその内容を選択する余地はないという意味においては,同被告は,同原告に対し,優越的な立場にあったということができる。
bまた,証拠(甲Bh第3号証,乙ニ第27号証)によれば,上智大学においては,学年を2期に分け,前学期は4月1日から9月30日までとされていることが認められるところ,同原告は,退学の翌日である平成13年4月20日ころから同年9月30日ころまでの間,大学の施設を利用せず,教育的役務もを受けておらず,何ら具体的給付を得ていないことが認められる。
cしかしながら,学年の途中に退学者が生じても,それに伴って準備した人的・物的教育施設に余剰が生じることはほとんどない反面,人員の補充は翌年度に至るまでは困難であるばかりでなく,納付された入学時納入金は相当部分において既に受領済みの教育的給付の対価としての意味を有しているから,これを返還しないとすることには合理性が認められるのであって,同被告に係る退学者不返還合意は,同原告の窮迫・軽率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認めることはできない。
カ被告立正大学学園関係
(ア)原告K,原告L,原告M,原告N,原告O及び原告Q
a前判示第2の1の(2)(別表2の該当原告欄)の事実及び証拠(乙ヘ第2ないし第6号証,第17号証,第22号証)並びに弁論の全趣旨によれば,同原告らは,同被告と在学契約を締結した際,他にも入学を希望する大学があったものの,その大学を不合格になった場合の浪人生活を回避するため,立正大学社会福祉学部(原告K),同大学文学部(原告L),同大学地球環境科学部(原告M,原告N,原告O),同大学心理学部(原告Q)の入学手続を執り,それぞれ2回に分けて入学時納入金を納付したものの,より志望順位の高い大学に合格したことから,それらの大学に入学手続を執って通学していること,同被告においてもこのような目的で入学時納入金を納付する者が相当数存在することを認識していたこと,同被告は,入学手続要項
に入学時納入金の金額,内訳及び納付期限を記載し,これを合格者に交付していたこと,同原告らもその記載内容を認識していたこと,同被告は,附合契約の性質を有する在学契約の内容を一方的に定めることができること,以上の各事実が認められる。
もっとも,上記の諸点に照らせば,同原告らは,同被告に対し,必
ずしも対等な立場にあったわけではないが,自ら利害得失を判断の上,在学契約を締結したということができる点は,前判示ウの(ア)と変わるところはない。
b証拠(乙ヘ第4ないし第6号証,第17号証,第21,22号証)及び弁論の全趣旨によれば,同被告は,平成14年度社会福祉学部社会福祉学科一般入学試験(S方式),平成13年度文学部社会学科一般入学試験(S方式),同年度地球環境科学部地理学科一般入学試験(S方式),平成14年度同学部環境システム学科一般入学試験(A方式),同年度同学部同学科同試験(S方式)及び同年度心理学部臨床心理学科一般入学試験(A方式)の各入学手続において,分納制度を任意に選択できるものとし,第2次納付手続の期限を平成13年度も平成14年度も3月4日としていたことが認められ,分納制度を設けており,受験者の経済的負担の軽減に一定の限度で配慮しているということができる。
c証拠(乙ヘ第4ないし第6号証,第17号証,第21号証)及び弁論の全趣旨によれば,大学は,学則において収容定員を定めるものとされていること(学校教育法施行規則4条5号),定員超過は補助金の減額事由となること(私立学校振興助成法5条2号),大幅な定員割れでは経営が成り立たないこと,同被告は,B方式による一般入学試験を実施しており,その合格者判定会議が平成13年度も平成14年度も3月6日及び7日に行われたことから,遅くとも各年の3月4日までにA方式及びS方式による入学者を予測しなければ,B方式による一般入学試験の合格者数を決定する資料とすることができなかったこと,立正大学においては合格しながら入学しなかった者のうち入学時納入金を支払った者の占める割合は10%程度であるこ
と,以上の各事実が認められる。
これによれば,同被告においては,定員割れ及び定員超過という事
態を防ぐことが健全な財政を維持する上で必要であるところ,A方式及びS方式による一般入学試験についての入学者数を正しく予測し,B方式の合格者発表により入学定員の欠員を補充する上で,一定の役割を果たしているものと考えられる。
d以上によれば,同被告に係る本件不返還合意は,同原告らにほとんど利益をもたらすものでなく,同被告側の事情によって定められているものであって,その妥当性に疑問はあるが,定員割れ又は超過のいずれであっても財政運営に支障を生じること,受験生の経済的負担に一定の限度の軽減が図られていることに照らすと,いまだ同原告らの窮迫・軽率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認めることはできない。
なお,同原告らの主張が前示の判断を覆すものでないことは,前判
示ウ(ア)のとおりである。
(イ)原告P
a前判示第2の1の(3)及びカ及び第3の4の(6)イ(ウ)の各事実によれば,退学者不返還合意は,同被告が一方的に定めた学則に基づくものであり,同原告にその内容を選択する余地はないという意味で,同被告は,同原告に対し,優越的な立場にあったということができる。
bまた,証拠(甲Bt第1号証,乙ヘ第1号証)によれば,学期は第1期と第2期に分け,前者は4月1日から9月30日までとされていることが認められるところ,同原告は,退学の翌日である平成13年4月18日ころから同年9月30日ころまでの間,大学の施設を利用せず,教育的役務も受けておらず,何ら具体的な給付を得ていないことが認められる。
cしかしながら,学期の途中に退学者が生じても,それに伴って準備した人的・物的教育施設に余剰が生じることはほとんどない反面,人員の補充は翌年度に至るまでは困難であるばかりでなく,納付された入学時納入金は相当部分において既に受領済みの教育的給付の対価としての意味を有しているから,これを返還しないとすることには合理性が認められるのであって,同被告に係る退学者不返還合意は,同原告の窮迫・軽率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認めることはできない。
キ被告早稲田大学
(ア)前判示第2の1の(3)キの事実及び証拠(乙ト第4,第5号証,第6号証の1及び2,第8,第9号証,第10号証の2,第15,第16号証)並びに弁論の全趣旨によれば,同被告は,創成入試及び総合選抜入試に係る入学試験要項及び入学手続関係書類に,入学時納入金を返還しない旨,入学時納入金の金額,内訳及び納付期限を記載し,これらの書類を入学手続に先立って原告S及び原告Tに交付し,同原告らは,これらの書類の記載内容を認識していたこと,同被告は,附合契約の性質を有する在学契約の内容を一方的に定めることができること,創成入試及び総合選抜入試においては,早稲田大学理工学部電子情報工学科及び同大学政治経済学部を第1志望とすることが出願資格とされていたこと,以上の各事実が認められる。
上記の諸点に照らせば,同被告は,同原告らに対し優位な立場にあるといえるものの,同原告らは,早期に進学先を確定することができるという利益を得ており,このことと入学を辞退する場合には入学納入金の全額が返還されないこととの利害得失を自ら判断して在学契約の締結に踏み切ったということができる。
(イ)前判示(ア)によれば,同原告らは,入学時納入金を一括して支払う不利益を被るものの,他方では,早期に進学先を確定して他の受験生よりも早く受験に伴う精神的負担から免れることができたものであり,その得た利益は決して小さいものではない。
(ウ)証拠(乙ト第17号証)及び弁論の全趣旨によれば,同被告においては,新学期開始前から入学者数を推定し,納入金及び補助金等を予測し,これらの諸収入全体を引当てとして予算を組み,事業遂行のために必要な人的・物的教育施設の確保及び充実を図ったり,事業計画を策定したりすること,以上の各事実が認められる。
これによれば,同被告は,当該年度の予算に従って支出をしており,ある者が入学を辞退したからといって,その支出が減少した員数の分だけ削減されることはほとんどないのであるから,入学辞退により本来予定していた納入金収入を得られず,既に支出された経費が補填されないという意味において損失が生じることがあることは否定できない。
もっとも,同被告は,あらかじめ推定していた入学者数を下回ることがない限りこのような損害を被ることはなく,このような事態が生じたからといって必ずしも入学時納入金に相当する損害を生じるとは限らないのであるが,納入金のうち一定割合に相当する入学時納入金を入学辞退者も含む全学生に対する経費に充てるべきものとしてこれを取得すること自体は,不合理とはいいきれない。
(エ)以上によれば,同原告らは自らの判断で本件不返還合意を含む在学契約の予約を締結し,それに基づく給付を一定限度得ていたのであり,本件不返還合意が,同原告らの窮迫・軽率・無経験などに乗じて,はなはだしく不相当な財産的給付を約束させる行為に該当すると認めることはできない。
クなお,原告B,原告D,原告G,原告H,原告I,原告L,原告Mは,他に本件不返還合意又は退学者不返還合意が無効であることにつき何ら主張していないから,この点で既に同原告らの請求は理由がない。
(3)消費者契約法9条の該当性
ア消費者契約法2条2項所定の「法人」は,自然人以外で,法律上の権利義務の主体となることが認められているものであり,これが営利法人であると公益法人であるとを問わないと解される。
そこで,被告青山学院,被告関東学院,被告上智学院,被告立正大学学園及び被告早稲田大学は,いずれも「法人」に当たるから,「事業者」ということができる。
この点に関し,同被告らは,教育事業が公的性質を有することを指摘するけれども,情報の質及び量並びに交渉力に格差のある大量的契約の当事者については公益性を問うことなく規制の対象とするのが同法の趣旨と考えられるから,これを採用することはできない。
他方,原告A,原告C,原告E,原告K,原告N,原告O,原告P,原告Q,原告S及び原告Tは,いずれも同法2条1項所定の「個人」に当たるから,「消費者」ということができる。
そうすると,原告Aと被告青山学院との間,原告Cと被告関東学院との間,原告Eと被告上智学院との間,原告Kと被告立正大学学園との間,原告Nと同被告との間,原告Oと同被告との間,原告Pと同被告との間及び原告Qと同被告との間で締結された各在学契約並びに原告Sと被告早稲田大学との間及び原告Tと同被告との間で締結された各在学契約の予約は,いずれも消費者契約に該当するというべきである。
なお,被告青山学院,被告関東学院,被告上智学院及び被告早稲田大学の主張のうち同被告らと該当各原告との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に関する点は,同法が事業者と消費者との間の構造的な格差を問題としているところ,在学契約ないしその予約は,同被告らにおいて一方的にその内容を定める附合契約であり,同原告らがその内容につき交渉することはおよそあり得ず,教育内容及びその対価に関する情報も被告らにおいて圧倒的に多くのものを有していると考えられるから,その主張を採用することはできない。
また,被告関東学院,被告上智学院,被告立正大学学園及び被告早稲田大学の主張のうち契約の性質に係る点は,同法が労働契約のほかには契約の性質を問題にしていないことに照らし,採用することができない。
イ消費者契約法9条1号所定の平均的損害とは,同一事業者が締結する多数の同種契約事案について,当該契約の性質,解除事由,解除時期,損害填補の可能性,解除により事業者が出捐を免れた金額等,諸般の事情を考慮して,類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額をいう。
ところで,同法は,事業者と消費者との間には情報の質及び量に格差があることを前提として消費者の利益の擁護を図ることを目的としているところ,この損害に関する情報及び証拠の多くが事業者側にあることはいうまでもない。
したがって,消費者が一般的に入手可能な情報及び証拠に基づいて損害計算をすることは困難といわざるを得ない。
このような両者間に存する立証上の格差に照らすと,具体的な損害賠償予定額が平均的な損害を超えることの立証責任は事業者が負うと解すべきである。
ウ被告青山学院関係
(ア)損害賠償予定条項の該当性
原告Aと同被告との間の退学者不返還合意は,前判示(2)イ(イ)のとおり,退学者に係る納入金収入の減収による損害を填補する趣旨と解されるから,損害賠償予定条項に該当するというべきである。
(イ)平均的損害の有無及び数額
学期途中において学生が在学契約を解除して退学した場合に,同被告において退学者に未履修期間に対応する納入金を返還していたのでは返還金と支出を免れなかった費用との差額に相当する損害の発生が見込まれることは前判示(2)イ(イ)のとおりであるところ,私立学校法48条が会計年度は4月1日に始まり3月31日に終わると定めていることからすると,その期間中に予算上の支出計画を変更することは困難であると考えられるから,当該学生の退学の翌日から当該会計年度の末日までの期間に対応する納入金の金額をもって平均的損害の額と解すべきである。
そして,同原告が退学したのは,前判示4の(2)イのとおり,平成14年5月22日であり,その翌日である同月23日から平成15年3月31日までの期間に対応する納入金に相当する金額が平均的損害になるというべきである。
(ウ)損害賠償予定の金額
損害賠償予定の金額は,前判示4の(2)ウのとおり,退学の翌日である平成14年5月23日から当該学期が終了する同年9月30日までの期間に対応する納入金に相当する金額である。
(エ)したがって,損害賠償予定の金額が平均的損害を超えていないと認められるから,同原告と同被告の間の退学者不返還合意が無効であるとすることはできない。
エ被告関東学院関係
(ア)損害賠償予定条項の該当性
原告Cと同被告との間の本件不返還合意は,前判示(2)ウ(ウ)のとおり,入学予定者の入学辞退を防ぐため,在学契約の拘束力を強める趣旨のほか,入学辞退者に係る納入金収入が減少すること,事前の設備投資が無駄になること,補助金の減額又は不交付事由になることという損害を填補する趣旨の合意であると解されるから,損害賠償予定条項に該当するというべきである。
(イ)平均的損害の有無及び数額
a同被告は,すべての入学予定者に対し,4月1日の到来をもって学生としての資格を付与し,教育的施設を利用させ,教育的役務を提供して,教育を遂行する義務を負っているところ,大学における教育は,集団的かつ統一的に行われる特質があり,そのために必要な人的・物的教育施設もまた一体的に用意されなければならないのであり,これらの義務を円滑に実施するためには,学生の納付する納入金及び補助金等の諸収入の予測を立て,これらを引当てとして,必要な人的・物的教育施設をあらかじめ用意し整えておくとともに,必要経費の支出計画を事前に予算化しておく必要がある。
そのため,入学予定者のうち一定の者が入学前に在学契約を解除し入学を辞退したからといって,あらかじめ準備し整えた人的・物的教育施設を縮小した
り,予算上の支出計画を変更することもできず,同被告が支出すべき経費が減少するものではなく,同原告が入学辞退をした結果として設備投資に余剰を生じることが想定される。
しかし,入学予定者は,任意に在学契約を解除することができる立
場にあり,実際にも多くの入学予定者がより志望順位の高い大学に合格して入学を辞退しており,このことは同被告においても認識していると考えられるのであって,同被告が入学辞退者数を予測しながら受入準備を進めていることは容易に推認できるのであり,入学手続を執った者の全員が実際に入学するとの前提で,これに対応することができるだけの人的・物的教育施設を整えているとは限らない。
また,入学辞退そのものが新たな学年が始まる前であることを勘案すると,入学時納入金の全額に相当する費用が受入準備のために支出されているわけではなく,当然のことながら当該学年が終了するまでの間逐次支出される費用も相当部分存すると考えられる。
また,入学辞退の結果,当初の入学者数の予測に見合うだけの入学
者を確保できない見込みとなったときであっても,補欠合格等により欠員を補充して損害の発生を回避することも可能であると考えられる。
そうすると,同被告は,入学予定者数,入学者数の当初予測,入学
辞退者数,入学者の受入れに支出した費用,入学予定者の欠員の補充可能性などを具体的に立証しない限り,平均的損害が生じると認めることはできない。
この点,同被告は,関東学院大学における人件費及び教育研究経費
の総支出合計額を学生の在籍者数をもって除した金額を平均的損害と主張するが,入学者1人当たりの受入費用を反映した金額ではなく,入学予定者数,入学者数の当初予測,入学辞退者数が明らかでない以上,これをもって直ちに損害額を算定することはできない。
また,証拠(乙ロ第1号証の2)及び弁論の全趣旨によれば,同被
告は,平成14年度関東学院大学経済学部一般入学試験(後期日程)(以下「後期日程試験」という。)を実施し,同年3月16日を合格者発表日としていることが認められ,これに加え,前判示第2の1の(2)の事実によれば,同原告が入学を辞退したのは後期日程試験前であって,同被告は,同原告の入学辞退によって生じた欠員を後期日程試験の合格者をもって補充し,設備投資の余剰分に伴う損害を回避し得る可能性もあったとみることができる。
そこで,同原告の入学辞退によって,設備投資に余剰分が生じたの
にこれを補填できなかったことによる損害を生じたと認めることはできない。
b同被告は,入学辞退者が生じることにより,その者に係る向こう4年間にわたる納入金を失った旨主張する。
しかし,前判示(2)ウ(ウ)の事実によれば,同被告は,所定の収容定員を遵守することを法律上要請されているとみるべきであるから,これを前提として事業計画を策定すべきであり,もともと定員超過部分についての納入金収入に基づいて逸失利益を算定することには問題がある。
また,相当数の入学予定者が入学を辞退をしているとの前提の下,
入学辞退者数を予測しながらその者から得られなかった納入金をすべて逸失利益として平均的損害の範囲内にあるとするのは相当でない。
そうすると,収容定員を超える部分について入学辞退者に係る納入
金収入の減少をそのまま平均的損害とみることはできないから,入学辞退の時点における定員割れの可能性や補充可能性の有無との関係で算定されなければならないところ,同被告は,同原告の入学辞退の時点における定員割れの可能性について具体的に立証していない。
また,前判示aの事実によれば,同被告は,同原告の入学辞退によ
って生じた欠員を後期日程試験の合格者をもって補充し,定員割れを回避する可能性もあったとみられる。
c前判示のとおり,定員割れを生じたときは,補助金の削減又は不交付事由とされる場合があるところ(私立学校振興助成法5条3号,6条),これは一般的な危険性として指摘することはできるが,実際に前判示のような入学辞退者数の予測の下に定員管理を行っている以上,同種事案について類型的に考察した結果に基づき損害が生じるとみることは困難である。
補助金の削減又は不交付に係る収入の減少が平均的損害に当たるというのであれば,入学辞退の時点における定員割れの可能性,これによる収入の減少額,入学辞退者数,補充可能性の有無などの関係で平均的損害を算定しなければならないところ,同被告は,これらの点に関し,何ら立証していない。
なお,前判示のとおり納入金には立替金的性質のものも含まれてい
るが,これについて学生としての身分を取得しないことが確定的となったのにその支出が不可避である事情を見出すことはできない。
(ウ)損害賠償予定の金額
損害賠償予定の金額は,前判示4の(3)イのとおり,49万8800円である。
(エ)したがって,損害賠償予定の金額が平均的損害を超えており,同原告と同被告との間の本件不返還合意のうち,入学金を除くその余の金員に係る部分が無効であるということができる。
なお,同被告の主張のうち権利濫用に係る点は,前判示(2)ウ(ア)及び(イ)に照らし,理由がない。
オ被告上智学院関係
(ア)損害賠償予定条項の該当性
原告Eと同被告との間の本件不返還合意は,前判示(2)オ(ア)cのとおり,入学予定者の入学辞退を防ぐため,在学契約の拘束力を強める趣旨のほか,入学辞退者に係る納入金収入が減少すること,事前の設備投資が無駄になること,補助金の減額又は不交付事由になることという損害を填補する趣旨の合意であると解されるから,損害賠償予定条項に該当するというべきである。
(イ)平均的損害の有無及び数額
a同被告は,同原告の入学辞退により設備投資の余剰分に相当する損害を受ける旨主張するけれども,入学予定者数,入学者数の当初予測,入学辞退者数,入学者の受入れに支出した費用,入学予定者の欠員の補充可能性などを具体的に立証しない限り,平均的損害が生じるとみることはできないことは,前判示エ(イ)aのとおりである。
この点,同被告は,上智大学における人件費及び教育研究経費の総
支出合計額を学生の在籍者数をもって除した金額を平均的損害と主張するが,入学者1人当たりの受入費用を反映した金額ではなく,入学予定者数,入学者数の当初予測,入学辞退者数などの具体的な数値は明らかでないので,これをもって損害額を算定することはできない。
b同被告は,同原告の入学辞退により納入金収入の減少に係る平均的損害を受ける旨主張するが,入学辞退者数を予測して定員管理を行っている実状の下で,そのような減収を直ちに逸失利益として損害に含めることには問題がある上,その損害の発生の有無は入学辞退の時点における定員割れの可能性や補充可能性の有無との関係で算定されなければならないことは,前判示エ(イ)bのとおりであるところ,この点について立証されていない。
cさらに,補助金の削減又は不交付による収入の減少についても,入学辞退の時点における定員割れの可能性,これによる収入の減少額,入学辞退者数,補充可能性の有無などの諸点に基づいて算定されなければならないことは,前判示エ(イ)cのとおりであるところ,これらの点に関しても,立証されていない。
なお,前判示のとおり納入金のうち立替金的性質を有するものにつ
いてその支出が不可避であったことを窺わせる事情は存しない。
(ウ)損害賠償予定の金額
損害賠償予定の金額は,前判示4の(5)ア(イ)のとおり,52万8600円である。
(エ)したがって,損害賠償予定の金額が平均的損害を超えており,同原告と同被告の間の本件不返還合意のうち,入学金を除くその余の金員に係る部分が無効であるということができる。
カ被告立正大学学園関係
(ア)原告K,原告N,原告O及び原告Q
a損害賠償予定条項の該当性
原告らと同被告との間の本件不返還合意は,前判示(2)カ(ア)cのとおり,入学予定者の入学辞退を防ぐため,在学契約の拘束力を強める趣旨のほか,事前の設備投資が無駄になるといった損害を填補する趣旨の合意であると解されるから,損害賠償予定条項に該当するというべきである。
b平均的損害の有無及び数額
同原告らの入学辞退による設備投資の余剰の発生に係る損害につい
ては,入学予定者数,入学者数の当初予測,入学辞退者数,入学者の受入れに支出した費用,入学予定者の欠員の補充可能性などを具体的に主張・立証しない限り,平均的損害が生じるとみることはできないことは,前判示エ(イ)aのとおりであるところ,同被告は,これらについて具体的に立証していない。
なお,前判示のとおり納入金のうち立替金的性質を有するものにつ
いてその支出が不可避であったことを窺わせる事情は存しない。
c損害賠償予定の金額
同原告らに係る損害賠償予定の金額は,前判示4の(6)ア(イ)のとおり,58万3000円(原告K),73万5000円(原告N),73万5000円(原告O),59万円(原告Q)である。
dしたがって,損害賠償予定の金額が平均的損害を超えており,同原告らと同被告との間の本件不返還合意のうち入学金を除くその余の金員に係る部分が無効であるということができる。
(イ)原告P
a平均的損害の有無及び数額
学期途中において学生が在学契約を解除し退学した場合,当該学生
の退学の翌日から当該年度の末日までの期間に対応する学納金の金額をもって平均的損害の額と解すべきであることは,前判示ウ(イ)のとおりである。
そして,同原告が退学したのは,前判示4の(6)イ(イ)のとおり,平成14年4月17日ころであり,その翌日である同月18日ころから平成15年3月31日までの期間に対応する学納金に相当する金額が平均的損害になるというべきである。
b損害賠償予定の金額
損害賠償予定の金額は,前判示4の(6)イ(ウ)のとおり,退学の翌日である平成14年4月18日ころから当該学期が終了する同年9月30日までの期間に対応する納入金に相当する金額である。
cしたがって,損害賠償予定の金額が平均的損害を超えているということはできず,同原告と同被告との間の退学者不返還条項に基づく合意の全部又は一部が無効であるということはできない。
キ被告早稲田大学関係
(ア)損害賠償予定条項の該当性
原告S及び原告Tと同被告との間の本件不返還合意は,前判示(2)キ(ウ)のとおり,事前の設備投資が無駄になるという損害を填補する趣旨の合意であると解されるから,損害賠償予定条項に該当するというべきである。
なお,同原告らが在学契約の予約をしながら本契約の締結に至らなかったことが実質的には他の大学における在学契約の解除と同視し得ることは前判示3の(2)ウのとおりである。
このような場合に消費者契約法9条が適用されないとすれば,事業者は,予約締結時に前払金を受領して損害賠償金に充てることにより規制を免れることができることになり,相当でない。
したがって,同条は,実質的には解除と同視し得る場合にも適用されると解すべきである。
(イ)平均的損害の有無及び数額
同被告は,同原告らの入学辞退により設備投資が過剰となったことに基づく損害を受ける旨主張するが,入学予定者数,入学者数の当初予測,入学辞退者数,入学者の受入れに支出した費用,入学予定者の欠員の補充可能性などを具体的に主張・立証しない限り,平均的損害が生じるとみることはできないことは,前判示エ(イ)aのとおりであるところ,同被告は,これらについて具体的に立証していない。
なお,前判示のとおり納入金のうち立替金的性質を有するものについてその支出が不可避であったことを窺わせる事情は存しない。
(ウ)損害賠償予定の金額
同原告らに係る損害賠償予定の金額は,前判示4の(7)イ(イ)のとおり68万4250円(原告S),43万6100円(原告T)である。
(エ)したがって,損害賠償予定の金額が平均的損害を超えており,同原告らと同被告の間の本件不返還合意のうち登録料(入学金)を除くその余の金員に係る部分が無効であるということができる。
ク以上によれば,原告Cと被告関東学院との間,原告Eと被告上智学院との間,原告Kと被告立正大学学園との間,原告Nと同被告との間,原告Oと同被告との間,原告Qと同被告との間,原告Sと被告早稲田大学との間,原告Tと同被告との間における各本件不返還合意は入学金(被告早稲田大学については登録料)を除くその余の金員に係る部分につきいずれも無効であるといわなければならないから,その余の点について判断するまでもなく,同被告らは同原告らに対し,入学時納入金のうち入学金相当額を控除した部分について返還義務を負う。
(4)消費者契約法10条
消費者契約法10条は,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」の存在を前提としているところ,在学契約が教育法の原理及び理念により規律され得ることが予定された継続的な有償双務契約としての性質を有する私法上の無名契約であることは前判示1のとおりであり,「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定」による規律を予定しておらず,したがって,同契約の解除に伴う損害賠償の予定に関する規定も存しない。
そして,退学者不返還合意に基づく入学時納入金の返還について確立された不文法規も存在しない。
そうすると,原告A及び原告Pのこの点に関する主張は,その余の点につき判断するまでもなく,主張自体失当というべきである。
6遅延損害金の起算日
原告C,原告E,原告K,原告N,原告O,原告Q,原告S及び原告Tの各請求は,別紙1の認容金額欄記載の金員の支払を求める限度で理由があるところ,原告Cの被告関東学院に対する訴状送達の日,原告Eの被告上智学院に対する訴状送達の日,原告K,原告N及び原告Oの被告立正大学学園に対する訴状送達の日並びに原告S及び原告Tの被告早稲田大学に対する訴状送達の日が平成14年10月10日であること,原告Qの被告立正大学学園に対する訴状送達の日が平成15年2月7日であることはいずれも当裁判所に顕著である。
したがって,原告C,原告E,原告K,原告N,原告O,原告S及び原告Tは平成14年10月11日から,原告Qは平成15年2月8日から前示の認容金額に対して民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する権利を有する。
第4結論
以上の次第で,原告C,原告E,原告K,原告N,原告O,原告Q,原告S及び原告Tの各請求は別紙1の認容金額欄記載の金員及びこれらに対する同表の認容遅延損害金起算日欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これらの部分を認容し,前記各原告の請求のうちその余の部分並びに原告A,原告B,原告D,原告F,原告G,原告H,原告I,原告J,原告L,原告M,原告P及び原告Rの各請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条,65条1項本文を,仮執行の宣言につき259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。過払い・過払い金について相談するなら
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サイト売買の専門|プレミアM&A
サイト売買(サイトばいばい)とは、企業や個人が持つウェブサイトおよびサイトを構成するコンテンツを商品として売買すること。サイトM&Aとも呼ばれる。
ウェブサイトの価値判断の基準としては、収益性、アクセス数、会員数、(検索サイトでの)検索結果やページランク、アクセスに適したドメイン名(基本的に「早い者勝ち」で登録される)など様々である。
このような良質のウェブサイトを最初から立ち上げるコストと時間を考慮した場合、既存のウェブサイトを買収したほうが合理的と考える買い手と、様々な理由により自身のウェブサイトを売却したいというサイトオーナーが存在することで、サイト売買が成立する。
「プレミア M&A」はサイト売買の専門サイト。(http://premierma.co.jp/)
査定は無料なので資産のチェックを。
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